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【私のハマった3冊】経済格差のなかった'50年代 キングが描く現代批判

2014年02月15日 14時00分更新

967BOOK

11/22/63 上
著 スティーヴン・キング
文藝春秋
2205円

グローバル・スーパーリッチ
著 クリスティア・フリーランド
早川書房
2100円

シグナル&ノイズ
著 ネイト・シルバー
日経BP社
2520円
 

 スティーブン・キング『11/22/63』は、現代に生きる主人公が、'58年にタイムスリップする手段を見つけ、その5年後に起こるケネディ暗殺を食い止めに行くというSF小説。主人公は、暗殺を食い止めることで世界は良くなると信じている。とはいえ、その世界は自分が生まれるよりも前の時代。食べものも会話に使う語彙も微妙に違っているのにとまどう。

 興味深いのは、主人公が過去のアメリカを気に入っていくところ。ここはノスタルジーではなく、キングの現代批判だ。

 これを読む副読本としておすすめなのが、現代の格差社会を取りあげる『グローバル・スーパーリッチ: 超格差の時代』。本書によると、社会の中に経済格差が広がったのは、19世紀から20世紀初頭。そして、'80年代以降。脱工業化を迎えた'50年代アメリカは、経済の繁栄においても、格差がなく中間層がもっとも幸せだった時代だ。格差が最大化して、中間層が不幸に陥っているのはもちろん現代。キングが’50年代を良い時代ととらえるのも納得だ。

 補足しておくと、本書は格差を悲観的に捉えない。新しい富裕層の特徴を記し、その経済学・政治学的意味を問うというフラットな一冊になっている。

 また、キングに話を戻すと、この小説のハイライトは、ケネディ暗殺が行なわれなかった世界を描いたところにある。ネタバレになるので詳しくは書かないが、思うように良い世界にはなっていないというのがミソ。

 昨今は、未来予測がブーム。コンピュータや統計学の発展により、その精度が高まっているからだ。『シグナル&ノイズ 天才データアナリストの「予測学」』は、野球、気象からテロまで、あらゆる分野での“予測学”の最先端が記される。だが、ひとことで結論を言うと、やっぱり予測は難しいという印象を受けた。まだまだ、キングのような作家の想像力が活躍する余地はあるようだ。
 

速水健朗
フリー編集者・ライター。近著に『1995年』(ちくま新書)、『フード左翼とフード右翼』(朝日新書)。

※本記事は週刊アスキー3/18増刊号(2月10日発売)の記事を転載したものです。

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