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【私のハマった3冊】 父子関係、反原発、ダメ男 感情を揺さぶるレベルの高い3冊

2014年05月31日 20時00分更新

981BOOK

ネイマール
父の教え、僕の生きかた

著 ネイマール&ネイマール・ジュニア
徳間書店
1944円

反原発へのいやがらせ全記録
編 海渡雄一
明石書店
1080円

捨てがたき人々 上・下
著 ジョージ秋山
幻冬舎文庫
各946円
 

 年を取るほど、感情を揺さぶる本との出会いは減ってゆく。ただしハードルが高いぶん、時折遭遇する傑作のレベルは高い。

『ネイマール 父の教え、僕の生きかた』もそんな一冊で、スポーツ選手の成功の秘訣くらいに期待していたら良い意味で裏切られた。ネイマールはブラジルサッカー界の若き国民的スターだが、じつは父親も平凡ながら元プロ選手。この本はその父と息子の手記が、交換日記のように交互に配置された構成。稚拙な文体ながら、溢れる感謝の思いが伝わる息子の章もいいし、哲学者のような深い思索のもと、すべてを息子に捧げてきた父親の老練な文章との対比も素晴らしい効果。息子を養うため夢を捨てた父と、その重さを完璧に理解している息子。理想的な父子関係がここにあった。

 特に泣けたのは父親がまだ現役時代、交通事故で自らの下半身がつぶされた状態で、赤ん坊だったネイマールがシートから消えたのを見た時の様子。ここは涙なしでは読めない。スポーツ書である以上に、これはあらゆる父親にとって最高の育児記録なのだと心を打ち抜かれた。

『反原発へのいやがらせ全記録』は、別の意味で泣けてきた一冊。もんじゅ訴訟など反原発運動に30年以上関わってきた海渡弁護士が収集した資料・証言集だ。いやがらせ手紙だけで4千通もあったそうで、そこから選りすぐりの文面を生々しいカラーコピーで掲載。運動家になりすます手口などはシュールだし、元アイドルの千葉麗子提供による、スプレー落書きされたBMWの写真にも恐怖感を感じる。

 実写映画化された『捨てがたき人々』は、究極のダメ男が肉欲をむさぼる話だが、膨大な独白が全男性の煩悩を言い当てていて驚く。主演・大森南朋は原作を読まない主義などと言われる俳優だが、これは夢中で読んだと本人から聞いた。彼ほどのモテ男でもこのブ男に共感したのかと思うと妙に嬉しい。そんな自分に泣けてくる今日この頃。
 

前田有一
亀有出身の映画批評家。100パーセント消費者側に立った"批評エンタテイメント"をテレビ等で展開中。

※本記事は週刊アスキー6/10号(5月27日発売)の記事を転載したものです。

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