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【私のハマった3冊】Hanako、年収、隈研吾 それぞれの視点から見る都市論

2014年07月26日 20時00分更新

989BOOK

銀座Hanako物語
著 椎根和
紀伊國屋書店
2052円

年収は「住むところ」で決まる
著 エンリコ・モレッティ
プレジデント社
2160円

僕の場所
著 隈研吾
大和書房
1620円
 

 雑誌『Hanako』の創刊はバブル真っ盛りの`88年。「キャリアとケッコンだけじゃ、いや」のコピーの働く独身女性向け情報誌。『銀座Hanako物語』は、その創刊から一時代を築くまでのドキュメントだが、都市論でもある。

 バブル期とは、雇用機会均等法の下、女性の可処分所得が上がった時代でもある。消費文化の中心を彼女たちが担うようになり、文化・風俗の力で街並み自体が変えられていった。ブランドの路面店が並び、女性で賑わう現在の銀座の街の光景は、その彼女たちが生み出してきたものなのだ。そんな視点のバブル論は新鮮だ。

 一方、日本の`80年代とは、都市における中心産業が、軽工業や小規模商業から、情報産業や金融業に移行した時代でもある。経済学者のモレッティの『年収は「住むところ」で決まる』は、アメリカで進む都市間格差の存在を指摘する。ひとことで言えば、衰退する製造業中心の都市のエリートは、発展するサンフランシスコのような都市のウェイトレスよりも年収が低くなるだろうという予言の本。ノマドでおなじみ安藤美冬は「クリエイターたるもの足立区在住では残念」と言って批判されたが、どうやら彼女が正解なのだ。

 最後は、新歌舞伎座や中央郵便局など、東京の新しいランドマークを手がける現代の都市クリエイターである建築家隈研吾の自伝的な一冊。

 隈の建築のキーワードは“反建築”、そして反都市。オイルショック後の時代に、コンクリート打ちっ放しが流行する建築の世界に学生の隈は疑問を持つ。

 鉄やコンクリートは、都市を半永久的に固定化させるための素材。隈はそうではない建築の在り方を探る。隈の建築では、竹や木を使ったものが有名だが、ここに原点があったのだ。また、幼少時に住んだ自宅が、新築せず、増築を繰り返したというエピソードが、その後の隈の思想を規定していたのも興味深い。
 

速水健朗
フリー編集者・ライター。近著に『1995年』(ちくま新書)、『フード左翼とフード右翼』(朝日新書)。

※本記事は週刊アスキー8/5号(7月22日発売)の記事を転載したものです。

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