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みんなのペットになりたかったソニーの犬型ロボット「AIBO」

2024年01月29日 12時00分更新

◆永遠の命を持つ犬型ロボットが誕生!

 時はまさに世紀末の1999年、ソニーは初の家庭用エンターテインメントロボットとして犬型ロボット「AIBO(アイボ)」を発売しました。

 初代「ERS-110」は、日本とアメリカで合わせて5000体販売されたものの、日本ではなんと20分で完売という、あまりの争奪戦っぷりに手に入れられない人が続出。

AIBO

「AIBO(ERS-111)」(1999年)

 ソニーとしてもいきなり何かに役立つロボットでもなく、四足歩行で歩く犬型ロボットに大勝負をかけるわけにもいかなかったと推測します。けれど、実際にフタをあけてみれば、25万円という高額にもかかわらず瞬殺するほどの吸引力であり、日本の配分は3000台で、このファーストロットを手に入れたAIBOユーザーは、まさに希少な体験を味わえた人たちということになります。

 それを受けて、1万台追加してスペシャルエディション「ERS-111」の予約を受け付けたところ、そこにも約13万5000件もの申し込みが殺到。焼け石に水のような状態で「ものを売るってレベルじゃねーぞ!」というお叱りがあったかはわかりませんが、それほどまでに日本国民の心をガッチリわしづかみにしたことも事実。

 結果としてソニーは生産と販売、サポート体制を増強することで、受注生産という形で欲しい人に行き渡ることになりました。

◆第2世代はライオンの子がベースに

 これで一段落ついたかと思いきや、四足歩行のペットロボットとしての市民権を得たことで、2000年には2nd GENERATION(第2世代)となるAIBO「ERS-210」を投入。しかもビーグル犬っぽさのあった初代モデルから一転して、今度はライオンの子供をモチーフにした外観になりました。えっ! もう新しいAIBO出るの? という驚きと、見た目の印象がずいぶんと変わってしまって、これもAIBOなの? という若干の戸惑いがありました。

AIBO

「AIBO ERS-210」(2000年))

 さすが新型だけあって、頭やあご、背中にタッチセンサーが増えて、子ライオンということで両耳にも動きが加わり、頭のキャノピー部分や尻尾にあるLEDとあわせて「喜び」「怒り」「ときめき」「不安」といった感情を、いままでよりも表現することができるようになりました。

 別売りのメモリースティックアプリケーション(AIBO-ware)「AIBOライフ」を使うと、本能的な欲求を持って、育て方によって個性が変わる、成長する「自律型ロボット」に。名前をつけて(名前登録機能)、呼んであげるとちゃんと反応してくれるなど、ほとんどコミュニケーションのとれなかった初代AIBOとはうって変わって親密度が大きく向上していました。

 面白いのは、AIBOの心ともいうべき「AIBO-ware」にはいくつか種類があり、「ハローAIBO!タイプA」というメモリースティックを入れると社交的で活発に育ったAIBOになったり、「パーティーマスコット」というメモリースティックを入れると、AIBOとじゃんけんやゲームなどが楽しめるといった具合に、性格や遊び方を変化させるといった楽しみ方ができました。

 ほかにも、オリジナルの動作や音を作れる「AIBOマスタースタジオ」や、作ったプログラムをAIBOに無線で送信して動かすための「AIBOワイヤレスLANカード」、AIBO専用のキャリングバッグといった周辺機器も充実。

 これがAIBOオーナーとしては、あれもこれも欲しくなっちゃうわけです。しかも今回は、価格も15万円と初代AIBOから10万円も安くなったうえに、販売予定数や受付期間といった制限もありません。ダメ押しとして、販売方法がインターネットや電話注文に加えて、実際にAIBO見て触れて体験したうえで店頭でも注文ができる、AIBO ショップまで展開。本気でソニーがAIBOビジネスを本格化させようという意志がハッキリと見て取れました。

◆愛玩ロボットブームをよそに独自路線のAIBO

 この頃は四足歩行のペットロボットという存在が珍しくもあり、ロボットと共存できるという夢が現実に近づいたこともあって、世の中にAIBOがまたたくまに浸透していったといったように思います。タイミングとしても、初代AIBOの発売とほぼ同じ時期には「ファービー」や「プリモエル」「プーチ」などコミュニケーションをとれるロボットたちが登場。総ロボット一代ムーブメントがおきたタイミングでもありました。

 ただし、これらと決定的に違うのは価格。AIBOはいくら精巧なギミックを持っているとはいえ、価格のハードルは常に存在していました。そうした事も意識してか2001年には、9万8000円という価格帯のAIBOを投入します。

 丸い顔をしたクマイヌをモチーフにして、ラッテ「ERS-311」とマカロン「ERS-312」という名前までついているという、これまたまったく趣が違うAIBOです。それぞれラッテは素直でおっとり、マカロンは陽気でやんちゃというキャラ設定がされていて、AIBO同士が自分たちの言葉でコミュニケーションをとったり、鼻先に手をかざすと距離センサーによって音を作ったり、「ラララ」と歌いかけるとAIBOがメロディーを作って返してくれたり、より親しみやすくなりました。幼児から成年まで8つの成長ステージにわかれて、成長するごとにいろいろな性格に変化するといった、育てる楽しみは残っています。

AIBO

「ERS-311」

 かなり面白い試みだったのが、フジテレビ系列でそのままラッテとマカロンをキャラクターにしたアニメーションが放映されたことです。そのアニメの中で流れてくる信号を、マカロンやラッテが聞くと連動して何かしらの反応をして反応して喜んだり、悲しんだり、驚いたりするといった「メディアリンク機能」で楽しむことができました。

 ちなみに、2003年にはラッテとマカロンに新しい仲間として、犬をモチーフにした「ERS-31L」が登場します。見た目の雰囲気はユニークな顔と茶色の本体が目をひく「パグ」デザインで、驚くのは6万9000円というAIBOとしては破格のプライス。スタンドを付属しなかったり、あまりかわいくない? という微妙な路線で、いかにAIBOの裾野を広げていきたいかという苦労がにじみ出ていて、なんとも微妙な気持ちになりました。

AIBO

「ERS-31L」

AIBO

◆ロボット好きには河森氏のデザインがグッとくる

 この本筋からはちょっと外れるのかもしれませんが、自分の中で一番といっていいほど衝撃を受けたのは、「ERS-220」です。AIBOというコミュニケーションを取れるペットとしての可愛らしさや、愛嬌というコンセプトをぶった切って、超がつくほど斬新なデザインでした。そのデザインを担当したのは、「超時空要塞マクロス」や「機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY」「新世紀GPXサイバーフォーミュラ」などのメカデザインで知られる河森正治氏だったのです。

AIBO

河森正治氏デザインの「ERS-220」

 異星人が人間を調査するため、地球へ送り込んだ偵察型ロボットいうコンセプトにしているため、口や目のある動物的なAIBOとしての面影はありません。全身に19個のLEDランプが埋め込まれて、動作するたびに動きや表情を表わして光るその演出や、アンテナやリトラクタブルヘッドライトがポップアップして、周囲を照らすといったギミックがありました。

 さらに、別売りの「AIBOワイヤレスLANカード」とパソコン用ソフト「AIBOナビゲーター2」を組み合わせて、ワイヤレスでパソコン上から、「ERS-220」に備わったカメラとマイクでとらえた映像や音声をパソコン上で確認して、まるでロボットを操縦するような感覚で遊ぶことができたのでした。

AIBO

「ERS-210」

 実はベースとなっているのは子ライオンの「ERS-210」とほぼ同じで、「ERS-210」をすでに持っていても、「220トランスフォームキット」を購入することで、ヘッド、レッグ、テールのユニットを組み替えて「ERS-220」へと変形させる事もできたのです。見た目のサイバーなデザインはもちろん、分離合体する機構や、PCでコントロールできるといった、ロボットファンならびに河森ファンにはぶっささるモデルなのは間違いありませんでした。

 こうして振り返ってみると、初代AIBOのセンセーショナルなデビュー以降は、本体に加えてソフトやアクセサリーといった拡張や、足早に次々へ展開されるバリエーション、そして度重なる価格の引き下げなど、一見華々しく見えるロボットビジネスも裏では相当苦しい事情があったのかもしれません。

 この後、初代AIBOの正当進化モデルともいえる「ERS-7」が登場するのですが、同時期に発生したソニーショックを引き金に、悲しい道をたどっていくことになるのでした。

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筆者紹介───君国泰将

ソニー(とガンダム)をこよなく愛し、ソニーに生きる男・君国泰将氏

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