週刊アスキー

  • Facebookアイコン
  • Xアイコン
  • RSSフィード

【私のハマった3冊】ヤマトタケルも恋をする? 『古事記』の人間臭さに触れる

2012年11月28日 10時00分更新

私のハマった3冊

恋スル古事記
著 近藤ようこ
角川書店
1155円

ぼおるぺん古事記  一
著 こうの史代
平凡社
1050円

水木しげるの古代出雲
著 水木しげる
角川書店
1575円

 今年は『古事記』編纂1300年ということで、マンガの世界も『古事記』に沸いた。『古事記』なんて読んだこともねえ、という人にむけて、近刊の3冊を紹介する。

 まずは、近藤ようこ『恋スル古事記』(角川書店)。『古事記』全体ではなく、その中のエピソード5つを抜粋して描く。その5編とは、国家誕生の『国生み』、『イナバの白うさぎ』で知られる大黒様(オオクニヌシ)、山幸彦・海幸彦、ヤマトタケル……と聞けば、一度は耳にしたことがあるだろう。有名な話ばかりなのだ。だから、興味をもつとか入門のためのマンガとしてはベストだ。ともするとややこしくなってしまう神話の人間(神々?)関係をシンプルにしてあるので、驚くほど読みやすい。エピソードごとの近藤の解説も楽しい。また、何と言ってもこれらの名場面を恋愛という角度から切りとっていて、『古事記』の人間臭さのエッセンスに触れられるだろう。

 次に、こうの史代『ぼおるぺん古事記』(平凡社)。欄外のごくひかえめな注と、こうのの描く豊かなイメージがあれば、なんと『古事記』を原文(古文)で楽しく読めてしまうのだ! 古典は現代文の解釈がなければ読めないという、ぼくの思い込みを打ち砕いた。

 最後に、『水木しげるの古代出雲』(角川書店)。前述のオオクニヌシにまつわる部分だけをクローズアップ。出雲(島根県東部)神話とよばれる部分で、『古事記』全体が大和政権の正統性を描こうとしたはずなのに、なぜこんなに分量をさいて脇の物語と思える出雲政権の話を描くのかは謎であるとして、多くの人が解釈を試みてきた。本作は水木流の解説である。出雲王朝は実在し、中国地方と北陸まで支配したが、やがて大和政権に征服されたとみなす。学問的な慎重さを排し、想像でモノを描く人間の面目躍如。それをさらにぶっとんだ空想で描いた安彦良和『ナムジ』もおすすめ。

紙屋高雪
漫画評・書評サイト『紙屋研究所』管理人。著書に『オタクコミュニスト超絶マンガ評論』(築地書館)。

※本記事は週刊アスキー12月11日号(11月27日発売)の記事を転載したものです。

この記事をシェアしよう

週刊アスキーの最新情報を購読しよう

本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります