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【私のハマった3冊】テレビ放送開始から60年 変りゆくメディアをふりかえる

2013年02月15日 13時00分更新

私のハマった3冊

テレビ・トラベラー
昭和・平成テレビドラマ批評大全
著 樋口尚文
国書刊行会
2730円

電波・電影・電視
現代東アジアの連鎖するメディア
著 三澤真美恵、佐藤卓己、川島真
青弓社
3990円

塀の上を走れ
田原総一朗自伝

著 田原総一朗
講談社
1680円

 テレビドラマを見る手段はいまやオンエアや録画する以外にも、DVDなどのソフトやネットでのオンデマンド配信と多様化している。過去の作品と接する機会も増えたとなれば、ドラマ評論の役割はますます重要になってくるはずだが、まとまったものとなると意外に少ない。

 その意味で、映画誌に'94年から17年間連載されたドラマ時評を全文収めた樋口尚文『テレビ・トラベラー』は貴重だ。が、もとの連載が始まったのは平成になってからのはずなのに、本書の副題が『昭和・平成テレビドラマ批評大全』なのはなぜ? そう思いつつ読んでいくと、昭和のドラマを引き合いに出した作品評も多く、看板に偽りはないと気づく。たとえば、'58年放送のドラマ『私は貝になりたい』が'94年にリメイクされた際には、旧作以外に映画版とも比較がなされ、旧作がテレビ初期の傑作とされる理由がよくわかる。

 日本でテレビ本放送が始まって今年で60年が経つ。『電波・電影・電視』には、日本のほか韓国、北朝鮮などアジア各地においてテレビ放送がどう始まったのか、研究者らによる論考が収録されている。このうち佐藤卓己の『「教育型」テレビ放送体制の成立』によれば、日本では、各テレビ局が一定の割合で教育番組を放送するよう法律で決められているという。それは放送開始から今日にいたるまで、理念として“電波による教育”が重視されているためだ。'60年前後に新設されたテレビ局には、NHK教育のほか、民放にも教育専門局として開局したところがある。当初は科学技術教育専門局だった東京12チャンネル(現テレビ東京)もその一つ。

 田原総一朗は同局設立と同時に入社、ディレクターとして型破りなドキュメンタリーを多数手がけた。ときには撮影のため取材相手ときわどい取引もしたと『塀の上を走れ』で告白する。番組が面白くなるなら何でもやる彼の姿勢もすごいが、それを許した局の度量にも驚かされる。

近藤正高
ライター。ウェブサイト『cakes』にて亡くなった著名人の足跡をたどるコラム『一故人』を連載中。

※本記事は週刊アスキー2月26日号(2月12日発売)の記事を転載したものです。

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