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【私のハマった3冊】ハンパな自分を殴りつける 仕事の厳しさがわかるマンガ

2013年03月01日 10時30分更新

私のハマった3冊

BET. 1
著 山崎童々
祥伝社
980円

恋するサバンナ
著 山崎童々
祥伝社
980円

なれる!SE 1
著 鶴山ミト、原作 夏海公司、キャラクター原案 Ixy
エンターブレイン
683円

 中途半端な自分の仕事っぷりを後ろから殴りつけるようなマンガを3冊紹介したい。なんでそんなマゾなものを紹介するのかという疑問はおいといて。

 最初に山崎童々のマンガを2冊続けて。まずは『BET.』(祥伝社)。売れないマンガ家・武松が、売れないクリエイターたちと同居している。そこに年下で、才能あふれる女性マンガ家・梨田がやってくる。はじめはアシスタントをしてもらうが、圧倒的大差で梨田の方がうまい。梨田という存在そのものが、覚悟もない武松に対する容赦のない批判になっている。

 次に『恋するサバンナ』(祥伝社)。デジタルコンテンツの企画制作会社っぽいところで働く男の話が2編入っている。『シリカゲル』という短編では、入社当時はその才能が期待されたクリエイター・明石が主人公だ。しかし小器用なだけの本質が見透かされていく。やがてクリエイターから外されディレクター側に回っても、部下のミスを体張ってフォローすることもできない。「この仕事仕切ってる人間が何後ろから様子窺って出て来てんの? ワンテンポ遅いんだよ 腰抜け!」と怒鳴られる場面は自分のことみたいでコワいわー。

 最後は本誌でもおなじみの『なれる!SE』のコミカライズ(エンターブレイン)。なかなか就職が決まらなかった桜坂工兵がシステム開発会社にやっと決まるが、いきなりシステムエンジニアにさせられる。ロクに研修もないままシステム構築の仕事を強要されるブラックぶりに怒る工兵の気持ちにも十分共感できるが、それを自力で突破してしまった瞬間に快楽が襲ってくることに、うなずいてしまう自分もまたいるのだ。

 誰でも、いつも納得できるまで仕事を徹底できるわけじゃない。どこかにハンパさは残している。だからリアルでこんな打撃を受けると、たぶんものすごくツラい。でも虚構だから何とか読める。その危うい、ギリギリな感じを楽しんでほしい。

紙屋高雪
漫画評・書評サイト『紙屋研究所』管理人。著書に『オタクコミュニスト超絶マンガ評論』(築地書館)。

※本記事は週刊アスキー3月12日号(2月26日発売)の記事を転載したものです。

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