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【私のハマった3冊】幽霊は見るものの心にある 生きてる人がいちばん怖ろしい

2012年09月19日 13時00分更新

私のハマった3冊

真景累ヶ淵
著 三遊亭円朝
岩波文庫
945円

おぞましい二人
著 エドワード・ゴーリー
河出書房新社
1050円

無惨絵 新英名二十八衆句
著 丸尾末広、花輪和一
エンターブレイン
3990円

 怖いというよりおぞましい本を三冊。精神的ダメージを与える劇薬系もあるので、読むときは気をつけて。

 まず、わが人生の最恐本は『真景累ヶ淵』、いわゆる怪談噺だ。死んでも死にきれない怨念が化けて出るんだが、怨霊そのものより、生きてる人の方が怖い。なぜなら、死者の怨みは限りあるが、人の欲望は際限ないから。“血”、“色”、“銭”の三原色で塗りつぶされた因業で、人はあっさり罪を犯す。私がそうするかは別として、程度の差こそあれ、同じ業に囚われていることに気づかされる。幽霊は見るものの心にある。怖がっていた私自身が、実は怖がられる対象だったことに気づくとき、世界のどこにも逃げ場がなくなる。「おまえだ!」と指差されたようなショックを受ける、もっとも恐ろしい瞬間。

 次はエドワード・ゴーリー『おぞましい二人』だ。絵本と侮るなかれ、これを子どもに読ませてはいけない。実話を元にした、子どもを誘拐しては殺す、不幸な男女の物語だ。感情的な表現を廃し、残酷な描写も皆無で、それでいて重い衝撃を受ける。読んだという記憶ごと忘れてしまいたくなる、嫌な傑作。

 最後は『無惨絵』。天才絵師・丸尾末広と花輪和一がタッグを組んで、迸る鮮血や美しい腐乱死体を強烈に描く。ジャパニーズ・スプラッタの金字塔ともいうべき、戦闘力が最も高い画集なり。伝染性が強くて、魅入っているこっちがおかしくなってくる。

 狂気と正気は紙一重。異形のものを自分の中に見いだして、体の芯からぞっとする。排除すべきもの、忌むべきものを、他ならぬ私 の中に発見する。誰であれ、“私”から逃げることはできない、誰から逃げても、どこまで逃げても、自分自身とは一緒なのだから。魑魅魍魎のほうがまだマシだ、生きている人、ほかならぬ私自身が、いちばん怖ろしい。

 読むときは、自己責任で、覚悟完了の上でどうぞ。

Dain
古今東西のすごい本を探すブログ『わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる』の中の人。

※本記事は週刊アスキー10月2日号(9月18日発売)の記事を転載したものです。

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