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【私のハマった3冊】心の強さを秘めた少女たちに勇気づけられる大河ファンタジー

2012年05月04日 19時00分更新

私のハマった3冊

帝国の娘 上
著 須賀しのぶ
角川文庫
580円

月の影 影の海(上)
十二国記

著 小野不由美
講談社文庫
560円

彩雲国物語
一、はじまりの風は紅く

著 雪乃紗衣
角川文庫
500円

 少女小説レーベル・コバルト文庫で、軍事物を数多く手がけ、最近は一般文芸でも活躍する須賀しのぶ。その代表作、全27巻の大河ファンタジー『流血女神伝』の新装版(『帝国の娘』)が刊行された。……と訳知り顔で記しましたが、ごめんなさい。噂は聞いていましたが私、今回、初めて読み、こんな凄い物語をなぜ読まなかったと大後悔しています。主人公は、病弱な皇子の影武者として拉致された少女カリエ。家族と生き別れ、別人としての人生を強いられる。いずれ用済みとして殺される定めで、皇位をめぐる陰謀も蠢く。泣きたくなる程、過酷な状況でも、彼女はしぶとい。どこまでも貪欲に生を求める強さがある。最初は娘を見守るように応援してたのに、いつしか彼女に勇気づけられ、憧れる自分に気付く。

 そんな物語が後25巻ぶんも読めるなんて超幸せ。この高揚感は小野不由美『十二国記』第1巻を読んで以来かも。中華風世界に突然放り込まれた少女・陽子が、裏切りに翻弄されながら、信じる心を失わず、自分なりの強さを身に付けていく姿に感動し、続きを貪ったものである。

 中華風世界で活躍する少女と言えば、雪乃紗衣『彩雲国物語』の秀麗もいる。いきなりダメ君主の后&教育係を押しつけられたり、初の女性官吏として男社会の宮廷に入ったり……苦労は多いが、持ち前の明るさと気の強さで奮闘する女の子だ。

 これら三作は、少女小説文庫から出版され、後に一般文庫から新装版が刊行、という共通の経緯を持つ。主役の少女たちは皆、世界の仕組も知らず、一人で生きる知恵も力もなく、自分が何者かもわからない……けれど、だからこそ、誰にとっても身近な視点となって、幅広い読者を獲得できたのではないか。

 最近、心が弱り気味の方に、是非、手にとって頂きたい三作。一見か弱く見えて、とんでもない心の強さを秘めた少女たちの、等身大の大河ドラマに、きっと力づけられるはずである。

前島賢
ライター。SF、ライトノベルを中心に活動。著書に『セカイ系とは何か ポスト・エヴァのオタク史』。

※本記事は週刊アスキー3月6日号(2月21日発売)の記事を転載したものです。

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