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【私のハマった3冊】お腹が空くけど幸せな“おいしいもの”が登場する3冊

2012年01月30日 13時00分更新

wambook

世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド 上
著 村上春樹
新潮文庫
700円

大きな森の小さな家
著 ローラ・インガルス・ワイルダー
福音館文庫
630円

買えない味
著 平松洋子
ちくま文庫
714円

 私は、自分で作った卵サンドが好きだ。それなのにキュウリも捨て難い、いや、キュウリサンドこそサンドウィッチの王様かもしれない。そう思ってしまったのが村上春樹の『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』だ。村上春樹の小説と言うと“料理の描写”が秀逸で、どれもこれも読んでいるだけで、読書などやめてお料理しなければ、という気分にさせられるものであるが、この本は特に! 数ある春樹本の中でこの本がいちばん好きなのも、もしかしたら物語の力だけでなくキュウリサンドの力もあるのではなかろうか。私は主婦であるが、私のかわりに誰か肉付きのよい女性がつくってくれたなら、最高である。こおろぎのように礼儀正しく食べよう。

 素敵なおいしいものが登場するだけで、その本を“愛おしい”と思ってしまう。映像と違って情報量が少ない分、“自分勝手に好きなだけ想像”してしまうので“おいしいもの”の威力が増すのであろう。

 ローラ・インガルス・ワイルダー『大きな森の小さな家』の、おいしいものも魅惑的に迫ってくる。アメリカ開拓時代の物語を描いたこの本に登場する食べ物は、現代からみるとシンプルかもしれない。しかし、いろいろ手のこんだものよりシンプルなものの方がおいしかったりするのだわ。ローラに影響されて“ベイコン”と名付けたブタを飼いたいと提案しているが却下され続けている。

 平松洋子『買えない味』は食べ物と、食べ物にまつわる道具について書かれた本である。おいしさは、舌だけでなく目や、指、もっと深いところ……自分の五感のすべてで味わうものだということを教えてくれる。レモンひとたらしで世界が反転する様、桃の皮を剥いたりチャパティをちぎるときの触感。

 おいしい本を読みつつ、自分の“食べたい欲望”を意識する。お腹は空くが、生きていることが実感できて幸せなのである。

ぷーとちゃー
読書コミュニティー『本が好き!』(外部リンク)レビュアー。母娘での読書談義めざし、娘に絵本読みまくり洗脳する日々。

※本記事は週刊アスキー1月24日号(12月19日発売)の記事を転載したものです。

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