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【私のハマった3冊】書店、図書館、朗読 本がもつ豊かで深い世界

2012年07月09日 13時00分更新

私のハマった3冊

本屋の森のあかり 1
著 磯谷友紀
講談社
420円

図書館の主 1
著 篠原ウミハル
芳文社
590円

花もて語れ 1
著 片山ユキヲ
小学館
570円

「本ばかり読んでたらダメだ」、「本は現実そのものではないよ」とよく言われた。しかし、ぼく自身、本のおかげで人生救われた、と思う。そんな“本”がもつ豊かで深い世界を描いたマンガは意外にも少なくない。

 まず紹介したいのは磯谷友紀『本屋の森のあかり』。全国展開をする大型書店で働く女性が主人公だ。1話ごとに小説や絵本、詩といった“本”の中身をからめながら、陳列、運搬、フェアといった書店独特の労働を描いていく。本の提示するロマンチシズムと、書店の労働の厳しい現実が交差しながら進むのを読むのが楽しい。

 次に紹介したいのは、篠原ウミハル『図書館の主』。私設の児童図書館とそこを訪れる客の話だ。大人になって読み直す児童書に、気づかされることはいろいろある。その“気づき”を図書館の司書である御子柴のぶっきらぼうな解説とともに導かれるのが心地よい。

 最後に紹介したいのは片山ユキヲ『花もて語れ』。“本”を“声を出して読む”、朗読の物語である。なんといっても朗読の解説がすごい。いま読んでいる箇所は一体誰の立場かという“視点の転換”を詳細に解読することで、平板な作品理解がくつがえされる爽快感がたまらない。

 4巻では芥川龍之介の『トロッコ』が題材になる。土工たちとトロッコに乗って遠くまで行ってしまった少年が、日が暮れて暗くなった線路をひとりで駆け戻ってくる有名な短編である。同作は芥川が晩年自殺したことから、帰路の少年の不安を芥川自身の破局に結びつけて語られることが多い。

 しかし、主人公はそう解釈しなかった。これは少年が不安と闘いながらも最後に居場所を切り開く希望の物語に読み替えるのである。しかも風を切ってトロッコに乗る様や長く伸びた暗い不安な線路をこの漫画家は実に巧みにグラフィックに換えている。表紙の印象と違い、重厚なマンガである。

紙屋高雪
漫画評・書評サイト『紙屋研究所』管理人。著書に『オタクコミュニスト超絶マンガ評論』(築地書館)。

※本記事は週刊アスキー5月22日号(5月8日発売)の記事を転載したものです。

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