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【私のハマった3冊】お湯が身体を温めるスピードで心を温めてくれる“風呂本”

2013年11月30日 15時00分更新

957BOOK

インド夜想曲
著 アントニオ・タブッキ
白水Uブックス
945円

羊飼いの指輪
著 ロダーリ
光文社古典新訳文庫
800円

純喫茶トルンカ
著 八木沢里志
徳間文庫
651円

 お風呂での読書が好きです。しかも、この掲載誌が店頭に並ぶのは11月26日の“いい風呂の日”といったら、やっぱり今回のテーマは“お風呂で読書”とくるわけで……。

 まずは、何年も前に“風呂本”として、殿堂入りした名著『インド夜想曲』。失踪した友人を捜してインド各地を旅する主人公の前に次々と現われる12のエピソードを章で分け、ひとつの物語へと昇華させる、幻想と瞑想に満ちた作品だ。

 私にとっての“風呂本”には経験上のルールがある。“細かい章立てで区切りがあるか、中短篇集であること”、“文芸作品であること”だ。それぞれの理由は簡単。湯あたりしにくいことと、お風呂という特性上、無防備にも裸でいる時くらい、現世の生々しさからは解放される必要があるからである。

 ロダーリ作品もまた“風呂本”の決定版だ。前作『猫とともに去りぬ』もまたお風呂でさんざん楽しませていただいた。『羊飼いの指輪』は、それぞれ3つの結末を持つ20の小篇で構成される“読者参加型”の愉快な一冊。深夜にのんびり湯につかりながら、自分好みの結末をじっくり探るこんな読書は、至福の時を約束してくれるだろう。

 最後にご紹介する『純喫茶トルンカ』は、タイトルと同名の“純喫茶トルンカ”で繰り広げられる毎日の断片を切り取ったかのような中篇を3つ収録。男子学生、中年男、女子高生と、主人公を変えながら、それぞれの人生の機微を紡ぎ出す本書は、まるでポタポタとドリップされた珈琲のようである。舞台が“純喫茶トルンカ”からほとんど動かないのもまた良し。こちらもお風呂から一歩だって動いていないのだ。湯船に張ったお湯が身体を温めるスピードで、本書も心をじんわりと温めてくれる。

 もしも湯船に本を落とすハプニングに遭遇しても慌てないで! 水気を拭き取って、冷凍庫に入れて半日もすると、嘘みたいにウネウネがなくなりますよ。

奥村知花
成城大学卒。“本しゃべりすと”として、新刊書籍のパブリシティに携わりつつ、書評エッセイなど執筆。

※本記事は週刊アスキー12/10号(11月26日発売)の記事を転載したものです。

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