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【私のハマった3冊】邪神が女の子だったりする“クトゥルフ神話”変化球の3冊

2013年01月31日 17時00分更新

私のハマった3冊

邪神金融道
著 菊地秀行
創土社
1680円

ネクロノミコン異聞
著 鳥山仁
イカロス出版
1200円

未完少女ラヴクラフト
著 黒史郎
PHP研究所
680円

 太古、地球は強大な邪神たちに支配されていた。彼らは現在、海の底や異次元で眠っているが、この宇宙的恐怖が再び目覚めれば人類は一瞬で滅んでしまう……米国の小説家、H・P・ラヴクラフトが描き出したこの壮大な世界観は、複数の作家たちによって書き継がれ“クトゥルフ神話”と呼ばれる体系となって今日まで発展を続けている。

 この創作神話の紡ぎ手は、日本にも数多く存在し、小説はもちろん、近年では巨大ロボットものになって『スーパーロボット大戦』の最新作に参加決定したり、萌えキャラ化されてアニメでも這い寄ったりと、意外な形で、しかし着々と浸透しているので、ご存じの方も多いのでは。そんなクトゥルフものから、変化球気味の三冊を選んだ。

『邪神金融道』は、『妖神グルメ』など数々の名作クトゥルフもので知られる菊地秀行によるクトゥルフ+金融小説。凄腕借金取りが挑む相手はなんと邪神。その姿を目にしただけで正気を失ってしまうはずの宇宙的恐怖たちを、「トリックだ」の一点張りで身も蓋もなく否定しつつ、容赦なく貸した金を取り立てていく主人公が痛快な一冊。

 鳥山仁の『ネクロノミコン異聞』はクトゥルフ+戦記小説。第二次大戦下、独ソが激突する東部戦線に召喚された邪神が歴史を変えていく。邪神たちは当然のごとく女の子だったりするが、強制収容所国家としてのナチスドイツとソ連をクトゥルフとからめることで、人類の邪悪さの方が際立ってくる作品だ。

 黒史朗『未完少女ラヴクラフト』では、ついにラヴクラフト先生が美少女化。クトゥルフをはじめ数々な神話や物語が融合した異世界での冒険譚を通じて、人間の想像力、そして言葉の力の素晴らしさを謳い上げるファンタジー文学だ。

 いずれも一見すると一発ネタのように見えて、けれども先行作を読み込んだからこそ描ける“大真面目なバカ話”だ。どうかお楽しみいただきたい。

前島賢
ライター。SF、ライトノベルを中心に活動。著書に『セカイ系とは何か ポスト・エヴァのオタク史』。

※本記事は週刊アスキー2月12日号(1月29日発売)の記事を転載したものです。

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