461個の弁当は、親父と息子の男の約束。
著 渡辺俊美
マガジンハウス
1620円
老妓抄
著 岡本かの子
新潮文庫
473円
傷みにくいお弁当&作りおきおかず
監修・料理 武蔵裕子
成美堂出版
1080円
食の細かった私のお弁当は、小さかった。母がふうわりとつけたご飯は、通学の揺れに寄って、蓋を開けると、ぽっかりとした空間ができていた。しかし、その空間の横には、彩り豊かなおかずが整然と並び「ほら、美味しいよ。食べてごらん」と語りかけてくるようなものだった。
そんな懐かしいお弁当の情景を思い出させてくれたのが『461個の弁当は、親父と息子の男の約束。』だ。ミュージシャンの渡辺俊美さんが綴ったお弁当エッセイである。「きちんと三年間、高校へ通う」との息子の決意をうけ、父は三年間欠かさず、弁当を作り続ける。こんなふうにきちんと作られた弁当を持たされた子は幸せだ。そこには“食育”という畏(かしこ)まった概念は無用だからだ。子は、渡された弁当を通して、親の愛情を感じ、いつの日か、自分の子供にそのバトンを渡すようになるだろう。
親は子を思って弁当をあつらえ、子はそれを受けて空(カラ)になった弁当箱を持って帰る。それはさながら“愛情の往復書簡”だ。そんなふうに思った時、無性に読み返したくなったのが、岡本かの子の『老妓抄』に収録された『鮨』である。寿司屋の看板娘に常連客が、母手作りの鮨の思い出を語る短篇だ。食べる事が苦痛だった子の為、庭に用意した小さな鮨屋。母親が慣れない手つきで愛情たっぷりに握る鮨により、子は初めて“味覚の感動”と共に“愛情”を理解する。そんな小篇だ。弁当の物語ではないけれど、そのベースにある“愛情の往復書簡”という意味においてはズレがないと思う。
最後に、こんな時期、特に薦めたいのが、衛生対策への理解をうながすレシピ本『傷みにくいお弁当&作りおきおかず』である。愛情込めて作ったお弁当が原因で、大事な人のおなかを壊しちゃった、なんて困ったことにならないように役立つ実用書。こんな時期だからこそ、気分新たに“弁当箱に広がる宇宙を創造”するのもまた一興ではないだろうか。
奥村知花
成城大学卒。書籍のPRに携わりつつ、”本しゃべりすと”として書評の執筆やラジオにて書籍紹介など。
※本記事は週刊アスキー7/15-22号(7月1日発売)の記事を転載したものです。
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