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【私のハマった3冊】終戦直後の猥雑で活気にあふれた堕落の風景

2014年11月29日 18時00分更新

1006BOOK

あれよ星屑 1
著 山田参助
エンターブレイン
691円

ハルロック 1
著 西餅
講談社
604円

風雲児たち 幕末編 1
著 みなもと太郎
リイド社
566円
 

 1冊目に紹介するのは山田参助『あれよ星屑』(エンターブレイン)。復員の兵隊とその上官だった男の話である。1巻の舞台は終戦直後の焼け跡、2巻は戦場の軍隊生活だ。

 闇市で売るスープに入れる犬を殺す。売春婦たちとエネルギッシュにやりまくる。だまされ売り飛ばされて輪姦される。捕虜の中国人を訓練で刺し殺す。刺し殺せずにいじめ抜かれ自殺する……ストーリー以上に、そういうひとつひとつのシーンが印象に残る。

 戦時体験を“幻影的”と批判し、終戦直後の猥雑で活気にあふれた堕落の風景に人間を見た坂口安吾の言葉、「日本は負け、そして武士道は亡びたが、堕落という真実の母胎によって始めて人間が誕生したのだ」(『堕落論』)を思い出す。

 2冊目は西餅『ハルロック』(講談社)。電子工作が好きな女子高生の話だが、死ぬまでの時間が表示されるタイマーとか、家のゴキブリを発見するマシンとか、ひったくり防止バッグとか、ちょっと聞くとろくでもない、しかしおもしろそうな装置を電子工作で実現してしまう。もちろん現実にある素材を組み合わせる。現実にできるかどうかわからないけども、“できるはず”ということで作中では作ってしまうのだ。プチSFチックである。そして主人公のハルと同じ、のめりこんだ気持ちで読むので、電子工作の解説があるのに全然“解説臭”がしない。細かいことを理解せずすっ飛ばしても十分楽しめる。

 最後は、みなもと太郎『風雲児たち 幕末編』(リイド社)。来年の大河ドラマは吉田松陰なんだけど、どうせわかりやすく、美しく理想に燃えた男に描かれるんだろ、というシラケがぼくの中にある。そんなとき、まずはこのマンガを読んでおくことだ。まず吉田松陰の造形をみて驚く。なんちゅー顔だ。そして、彼の偉大さはいかに彼のトンデモさと表裏一体だったかもよくわかる。
 

紙屋高雪
漫画評・書評サイト『紙屋研究所』管理人。著書に『オタクコミュニスト超絶マンガ評論』(築地書館)。

※本記事は週刊アスキー12/9号(11月25日発売)の記事を転載したものです。

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