にゃんそろじー
編 中川翔子
新潮文庫
637円
それでも猫は出かけていく
著 ハルノ宵子
幻冬舎
1620円
100万回生きたねこ
著 佐野洋子
講談社
1512円
残暑厳しく、寝苦しい夜も、こうしてパソコン前に座っているときも、うちの甘えん坊たちは容赦なく、膝の上に陣取ったり、おなかの横で丸くなったりと、とにかく暑苦しいことこのうえなしである。しかも、最近、優れた猫本が続々出版されているものだから、「暑苦しい」なんて言いながらも、猫を隣にはべらせて猫本を読み耽るのです。
タレントの“しょこたん”こと中川翔子さんが編纂された『にゃんそろじー』は、その名の通り、猫にまつわるアンソロジー。ページをめくれば、『吾輩は猫である』のモデル猫が死ぬところから始まり、教科書でお目見えする渋めの作家群にしびれるのである。猫をとおして、大作家たちの偏愛ぶり、あるいはドライすぎるもの、ファンタジーを見るもの、自己を投影するものと、“人間”や“時代”が見えてくるからおもしろい。
そんな近代日本文学猫史の次に手を出したのは『それでも猫は出かけていく』。“戦後最大の思想家”とうたわれた吉本隆明の長女がつづった、吉本家の猫たちの話。排泄コントロールの出来ない障害を持つ“シロミ”を家族に迎えたところから始まる、吉本家、激動の8年間の記録。常時4匹の家猫から、数えきれないくらいの外猫たちを語り尽くした一冊だ。ツンデレな“シロミ”、吉本隆明の愛人とも称された“フランシス子”、コンドルのような風貌の“カイセンどん”などなど。まさしく猫の世界もまた、千差万別の百花繚乱なのである。『にゃんそろじー』が“猫を通して人を知る”本なら、本書は“人を通して猫を知る”本と言えるのではないだろうか。
最後に“猫を通して人生を知る”本を挙げておきたい。名作中の名作『100万回生きたねこ』だ。“生きることは、死ぬことと表裏一体。そして生きることは、愛することと一緒である。”そんな大事なことを思いださせてくれる。だから、私はこの膝の上にいる、愛くるしくも温かな動物に人生を見るのである。
奥村知花
成城大学卒。書籍のPRに携わりつつ、”本しゃべりすと”として書評の執筆やラジオにて書籍紹介など。
※本記事は週刊アスキー9/9号(8月26日発売)の記事を転載したものです。
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