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【私のハマった3冊】次の大河ドラマはこれだ!? 戦国一の大悪党・松永弾正な三冊

2015年01月23日 18時00分更新

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弾正星
著 花村萬月
小学館
1836円

死霊大名
くノ一秘録1

著 風野真知雄
文春文庫
605円

黎明に叛くもの
著 宇月原晴明
中公文庫
1028円

 

 戦国武将・松永久秀。主家・三好家を乗っ取り、室町将軍を殺し、東大寺の大仏を焼く――織田信長をして「此老翁は世人のなしがたきこと三つなしたる者」と言わしめ、その信長を二度も裏切った挙げ句、最後は名器・平蜘蛛と爆死。戦国一の大悪党と呼ばれるのも納得だ。

 今回は、そんな戦国ボンバーマン・松永弾正な三冊。まず、芥川賞作家・花村萬月が描く『弾正星』。“乱世の梟雄”という言葉を体現するような人物でありながら、一方、教養溢れる茶人でもあり、日本の築城技術を大いに発展させ、さらに閨房術の指南書まで書くなど、文化人としても知られる松永弾正。その一個の人間としての姿に迫ったのが本書だ。あまりに多彩な才能を持ち、何物にも縛られず思うがままに生き、しかしそれゆえにこそ天下を取り逃がす……その生き様はどこか哀しい。

 そんな弾正の個性は伝奇小説においても恰好の題材となる。風野真知雄『くノ一秘録』が描くのはゾンビ使い・松永弾正。信貴山城に忍び込んだ美少女くノ一・蛍が見たのは、南蛮人のもたらした奇怪な秘薬によって死霊と化した久秀。屍者の兵を操り、筒井順慶を滅ぼそうとする久秀だが、順慶もまた、不死の兵を操る化物となっていた。かくして、ゾンビの兵同士が争う、かつてない戦国合戦が始まる。

 続いて宇月原晴明『黎明に叛くもの』が描くのはアサシン・松永弾正。イスラム暗殺教団ハサンの技を身に付けた、蝮の斎藤道三と蠍の松永久秀の義兄弟が、日本の東と西で国盗りを志す異形の戦国史である。幻の術で歴史を裏から操る弾正。様々な文献と教養に裏打ちされた語り口に読者まで幻惑されること必至の、傑作伝奇だ。

 もちろん弾正を描いた作品はこの三冊にとどまらない。そしてこれからも、松永久秀の存在は描き手に新たな着想を与え続けるだろう。凄いぞ弾正、僕らの弾正。『真田丸』の次の大河ドラマは、きっと、君だ!
 

前島賢
ライター。SF、ライトノベルを中心に活動。著書に『セカイ系とは何か』(星海社文庫)がある。

※本記事は週刊アスキー2/3号(1月20日発売)の記事を転載したものです。

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