【私のハマった3冊】いい時代を生きた人々のその後 人生の転機を感じている人に
2015年01月16日 08時00分更新
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33年後のなんとなく、クリスタル
著 田中康夫
河出書房新社
1728円
さようならと言ってなかった わが愛 わが罪
著 猪瀬直樹
マガジンハウス
1404円
サブカル・スーパースター鬱伝
著 吉田豪
徳間文庫カレッジ
810円
『なんとなく、クリスタル』の発表は’80年。海外ブランドに囲まれた女子大生・由利の恋愛と消費生活を描いたこの小説は、当時の若者像をとらえたものとして人気を博し、社会現象に。
その続編『33年後のなんとなく、クリスタル』では、50代に差し掛かった彼らが再びフェイスブックを通じて再会する。相変わらずバブリーな食やワインに目がない彼らだが、会話の中身は健康や介護……33年の年月経過の跡は隠せない。痛快。
猪瀬直樹が都知事を辞任したのは、1年ちょっと前。ずっと昔のことに思えてしまう。新刊『さようならと言ってなかった わが愛 わが罪』は、五輪招致活動の最中に突然、余命数ヵ月の診断を受け、急速に病状が悪化し亡くなった妻のゆり子さんとの大学生時代の出会いから、現在までをつづった一代記。
駆け落ち同然の上京と結婚。そして、若き売れっ子小説家を志しながら、雑文書きにしかなれなかった20代。そこから作家として名をなすまで。順風満帆の猪瀬の人生は、妻の死以降、逆風に変わった。そんな人生模様がまざまざと記されている。
サブカルの分野で活躍してきたスターたちは、なぜかみな40歳で鬱を患う。その命題を元に、大槻ケンヂ、松尾スズキらにインタビューを重ねたのが『サブカル・スーパースター鬱伝』。文庫版用に収録されたユースケ・サンタマリアが、自らの生きづらさをカミングアウトする。一見、単なるインタビュー集のようでもあるが、明確なテーマがあり、ここまでの事例がそろってしまうとかなり読み応えのあるルポルタージュに変身。
この3冊には共通点がある。これらに描かれているのは、ある時期までは、上り調子の生き方をしてきた成功者たち、またはいい時代に生きた人たちの人生だ。彼らは、その後、転向を余儀なくされる。そんな人生についての書物たち。
自分の人生の転機の予感を感じている人におすすめ。
速水健朗
フリー編集者・ライター。近著に『1995年』(ちくま新書)、『フード左翼とフード右翼』(朝日新書)。
※本記事は週刊アスキー1/27号(1月13日発売)の記事を転載したものです。
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