サインシステム計画学
著 赤瀬達三
鹿島出版会
5775円
鉄道会社の経営
著 佐藤信之
中公新書
987円
みんなの空想地図
著 今和泉隆行
白水社
2100円
日本の鉄道の駅では、乗車・入口を示すサインがグリーン、降車・出口がイエローと色分けされている。何気ない表示だが、これが普及したのは、1973年に営団地下鉄(現・東京メトロ)が旅客案内表示を見直した際に採用してからのことだ。
赤瀬達三『サインシステム計画学』は、営団のプロジェクトなど著者が携わった体験を踏まえながら、サインシステムの歴史や理論をあきらかにする。入口と出口を色分けするなど案内表示を体系化する作業は、地下鉄網が年々拡大するなかで、利用客が混乱しないためにどうしても必要であった。
鉄道業界ではユニバーサルデザインの掛け声のもと、どんな人にも利用しやすいよう設備の改善が進められている。だがそれでもなお不便な点も目につく。たとえば首都圏のJRの駅では、同じ方面に向かう快速と普通電車がたいてい別々のホームに分かれており、乗り換えにはわざわざ階段を上り下りして移動せねばならない。佐藤信之『鉄道会社の経営』によれば、これというのも旧国鉄が戦後、輸送力増強のため快速などの優等列車と普通電車の線路を分離するにあたり、乗換利便性を考慮しなかったためだという。
本書は、運輸事業だけでなく沿線開発など多岐にわたる鉄道会社の事業を、歴史をひもときつつ検証したものだ。ローカル線が生き残るにはどんな策をとるべきか、さまざまな提案がなされているのも目をひく。
『みんなの空想地図』の著者・今和泉隆行は小学生の頃より架空の“中村市(なごむるし)”の地図を描き続けている。少年時代の著者はまた多摩センターへの違和感から、同駅周辺の鳥瞰図を自分の理想通り描き直したこともあったとか。多摩センターの街並みは利便性を追求するがあまり、ほかの利便性を阻害しているのではないかと思ったというのだ。街や駅など公共空間のデザインを考えるうえで、こういう違和感は案外大事かもしれない。
近藤正高
ライター。愛知県在住。ウェブサイト『cakes』にて物故者を振り返るコラム『一故人』を連載中。
※本記事は週刊アスキー2/18-25合併号(2月4日発売)の記事を転載したものです。
週刊アスキーの最新情報を購読しよう
本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります