やさしさをまとった殲滅の時代
著 堀井憲一郎
講談社現代新書
777円
「就社志向」の研究
著 常見陽平
角川oneテーマ21
820円
格付けしあう女たち
著 白河桃子
ポプラ新書
819円
堀井憲一郎と言えば、週刊文春の連載『ホリイのずんずん調査』の人。’95年から続いた連載も一昨年に終了。好きな連載だった。彼の『やさしさをまとった殲滅の時代』は、2000年代の10年間に訪れた社会の変化について書いたもの。
取りあげられるのは“2002年W杯”、“ライトノベル”、“電車男”、“秋葉原連続殺傷事件”、“ロストジェネレーション”といった事件や現象。特に著者は“ブラック企業”という言葉が登場した経緯に注目。これは“社会悪”の告発ではなく“働いている自分が大変”という目線で発信された言葉。つまり、“私の視点”という世界観でしかものが語られなくなった時代なのだという。ふむふむ。
いまどきの若者は、会社にしがみつきたいと考えているというのは、常見陽平『「就社志向」の研究』。転職してブラック企業とかに引っかかりたくないということか? しかも、今の会社に一生勤めたいという願望は、年々高まっているという。なんだ、みんな辞めたり、自由に働いたりしたいんじゃないんだ。
そう、当たり前だけど日本の実態はまだ会社社会だし“株式会社日本”は続行なのだ。
日本は隠れた身分制社会というのも、ずっとずっとそう。
白河桃子の『格付けしあう女たち』は、ママ友などの女性コミュニティーにおける“カースト制”を取りあげた一冊。
男の格付けは、社会的地位と年収で決まるが、女のそれはもっと複雑。容姿やセンスといった、見てくれの部分も問われるし、結婚する相手によって一発逆転も可能なのだ。
なぜそんなカーストが生まれるのか? 均質な共同体だけに、小さな差異が序列を生むというのが著者の見立て。一方、カーストとは、コミュニケーションを潤滑にする知恵でもあるという解釈はとてもおもしろい。
00年代論、仕事論、女性論。どれも読むだけで社会の見通しをクリアーにしてくれる一冊。
速水健朗
フリー編集者・ライター。近著に『1995年』(ちくま新書)、『フード左翼とフード右翼』(朝日新書)。
※本記事は週刊アスキー12/17号(12月3日発売)の記事を転載したものです。
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