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【私のハマった3冊】いちばん身近な“心”について科学と哲学の両面から迫る

2013年11月02日 17時00分更新

953BOOK

心の仕組み 上
著 スティーブン ピンカー
ちくま学芸文庫
1995円

音楽の科学
著 フィリップ・ボール
河出書房新社
3990円

転校生とブラックジャック
著 永井均
岩波現代文庫
1071円

“心とは何か”について、ずっと追いかけてきたのだが、現時点で最も明快に説明している本に出会えた。総論として『心の仕組み』、心と音楽の事例として『音楽の科学』、そしてヒトが説明できる限界として『転校生とブラックジャック』と、科学と哲学の両方からご紹介。

 スティーブン・ピンカー『心の仕組み』によると、心とは進化の過程における自然淘汰を経て設計されたニューラル・コンピューターになる。心とは複数の演算器官からなる系であり、思考は脳の演算処理の一つだというのだ。サールの“中国語の部屋”への反論やフレーム問題、チョムスキーのモジュール仮説、カーネマンの認知バイアスを引きながら、思考と感情の仕組みを、進化と淘汰と演算活動で説明しようとする。

 この認知論から語られる音楽の再定義がおもしろい。いわゆる“聴覚のチーズケーキ”論。音楽とは、ヒトの精神機能の敏感な部分を快く刺激するよう精巧に作られたというのだ。

 これは、P・ボール『音楽の科学』における「なぜ音楽は快いか」、「音楽は普遍的か」にも通じる。こちらは、音楽の構造や意味から、音色やハーモニーが脳にもたらす仕組みまで、認知科学から迫った大作だ。音楽が私たちの耳にどう聞こえるかは、聞こえた音そのものだけで決まるのではなく、その人がそれまでどんな音楽を聴いてきたのかによっても聞こえ方は変わってくるという。音楽の“快さ”は、ヒトに合わせて進化してきたミームと考えてもおもしろい。

 永井均『転校生とブラックジャック』を読むと、必ずしも心について決着をつけたわけではないことがわかる。独在性をめぐる心脳問題を対話形式で深堀りした本書は、ピンカーが「ヒトである限り解決できない問題」として挙げた自由意志を、哲学の面から解こうとする。

 広くて深くていちばん身近な“心”について、科学と哲学の両面から攻めてみよう。

 

Dain
古今東西のすごい本を探すブログ『わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる』の中の人。

※本記事は週刊アスキー11/12号(10月29日発売)の記事を転載したものです。

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