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【私のハマった3冊】実話ならではの緊張感が味わえる 強くすすめたいコミックルポ3冊

2013年10月26日 14時00分更新

952book

ベルリン 分断された都市
著 ズザンネ・ブッデンベルク、著・画 トーマス・ヘンゼラー
彩流社
2100円

敗走記 1
著 しまたけひと
講談社
620円

失踪日記2 アル中病棟
著 吾妻ひでお
イースト・プレス
1365円

 最近出たコミックのルポ。どれもすごいものばかりだった。3つとも強くおすすめしたい。

 一つは、『ベルリン 分断された都市』。戦後東西に引き裂かれたベルリンの歴史を順番に5人の体験で描く。はじめの3篇は東から西への脱出である。境や壁をこえてすぐむこうに行くだけ、というその単純な行為が命がけで行なわれてきた。不謹慎な読み方だが、そこにとてつもないスリルがある。実話でなければこの緊張感は味わえない。後半の2篇は壁を壊す力がどう育っていったかを個人の体験の中から描き出していく。

 次に紹介したいのは『敗走記』。関ヶ原の戦いで敗れた島津義弘が逃亡した250キロをたどり、漫画家が同じ6日間で踏破する様を記録したマンガである。長年ロリエロ漫画家を続けるもまったく売れずに38歳までそれをこじらせてきた。島津の敗走と自分の人生の“敗走”をうじうじと考え、比較しながら歩き続けるという、まことに後ろ向きなルポ。宿泊先の20代の美女に無謀に声をかけるくだりは思わず目を覆う。こんなもの読ませるなァ! と怒りつつ、つい読んでしまう中毒性が怖い。

 最後は『アル中病棟』。『失踪日記2』という副題のとおり、アルコール依存となって失踪しホームレスをした体験を『失踪日記』として出版した漫画家・吾妻ひでおがその続編として描いたものである。

 アルコール依存症患者を治療する病棟に入り、その日課を紹介する体裁で描かれていて、そこで起きたことが淡々と描かれているのであるが、それだけのことがなんでこんなにおもしろいの!? と不思議になる。

 長く同室だった患者が退去時くれたプレゼントを吾妻が速攻で捨てるエピソードのように、美しい話にしようとか、明るい話で終わろうとか、読者を啓蒙しようとか、そういうあらゆる気負いが本作には抜けている。その脱力が突き放した客観性を獲得しているのだ。

 

紙屋高雪
漫画評・書評サイト『紙屋研究所』管理人。著書に『オタクコミュニスト超絶マンガ評論』(築地書館)。

※本記事は週刊アスキー11/5号(10月22日発売)の記事を転載したものです。

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