日本建築集中講義
著 藤森照信、山口晃
淡交社
1995円
言語学の教室
著 西村義樹、野矢茂樹
中公新書
882円
死にたくないんですけど
著 八代嘉美、海猫沢めろん
ソフトバンク新書
767円
専門家が門外漢の相手にレクチャーをする本では、教えを受ける側も独自の知識やセンスを持っていたほうが断然話はおもしろくなる。
『日本建築集中講義』も、建築史家の藤森照信に対し、彼とともに各地の名建築を巡る生徒役に画家の山口晃を選んだ点にまず惹かれる。藤森はあとがきで、山口をボケタイプ扱いしているのだが、本文を読むとむしろボケは藤森のほうだろう。千利休の建てた茶室“待庵”の間尺が人体に合わせていると説明するのに、いきなり畳の上に大の字に寝転がったことからしてそうだ。その様子を山口は四コママンガでおもしろおかしく描いている。これ以外にも藤森のキャラの立ちっぷりを伝える山口の観察眼には、さすが画家だと感心してしまう。
『言語学の教室』では、“認知言語学”について言語学者の西村義樹が、哲学者の野矢茂樹を相手にレクチャーする。認知言語学とは、言語の機能を心の働きと関連づけて考えようというものだ。たとえば、“雨に降られた”とは言うのに“財布に落ちられた”とは言わないのはなぜか? 認知言語学ではこれを、それぞれの事柄に対する人間の感覚などの違いから説明する。
同書の読みどころは、西村の説明に対し、野矢は納得がいかないと、これはむしろこんなふうに考えたほうがいいのではないかと自分なりの解釈を述べたり容赦がないところだ。
同様に『死にたくないんですけど』での作家・海猫沢めろんと生物学者・八代嘉美の対話も一筋縄ではいかない。題名に示された海猫沢の相談に答えろというのだから、それも当然だろう。人間の心をソフト、体をハードにたとえるなど海猫沢のSFチックな発想に対し、八代が生物学や医学の観点から反論したりするのが何ともスリリングだ。それでいて、ラストには二人して新たな考え方を見出すところこそ、まさにレクチャー本の醍醐味といえる。
近藤正高
ライター。ウェブサイト『cakes』にて亡くなった著名人の足跡をたどるコラム『一故人』を連載中。
※本記事は週刊アスキー10/29号(10月15日発売)の記事を転載したものです。
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