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【私のハマった3冊】ロマンや妄想をかき立てる“お屋敷散歩”に出かけませんか

2013年05月10日 20時00分更新

私のハマった3冊

お屋敷散歩
著 内田青蔵、写真 小野吉彦
河出書房新社
1785円

高慢と偏見 上・下
著 オースティン
光文社古典新訳文庫
各960円

悪女について
著 有吉佐和子
新潮文庫
788円

 若葉の萌える今頃の時期には、つい、本を片手にお散歩したくなってしまいます。内田青蔵さんのまとめられた『お屋敷散歩』は、そんな気分にぴったり。今も残る、明治から昭和初期の芳しき時代の洋館を、歴史や写真もたっぷりと紹介した魅力満載な一冊です。エリスマン邸や、雑司ヶ谷旧宣教師館など、気品あふれる名邸を、のんびりと廻りながら、そこで繰り広げられたであろうドラマに思いを馳せるお散歩も、なかなか素敵です。

“お屋敷”というと、私はどうしてもオースティンの描くイギリスの古式ゆかしい邸宅を思い浮かべてしまいます。そこここにちりばめられた“屋敷のしつらえ”や“年金”など具体的な描写に、オースティンの時代に“玉の輿”がいかに女性の大命題であったかを頷きながら、クスリとなる。そこに焦点を当てて読んでみるのも案外おもしろいかもしれません。

 かのサマセット・モームもその才能を羨んだ、オースティン。不朽の名作『高慢と偏見』の主人公の友人であり、善良な脇役シャーロットが手に入れたお屋敷とその生活を詳しく描写した模様は、当時の女性の苦労が伺いしれる一節です。著者の人の悪さと、シャーロットの聡明で控えめな性格との対比が物語にメリハリを与えます。

 美しいものに目がなく、自殺とも他殺ともわからない最期を遂げた女実業家の人生を、彼女に関わった27人の男女の視点のみで語らせた圧巻の書『悪女について』に登場するお屋敷も、なんだかとても惹き込まれます。主人公、富小路公子の虚飾の人生は、旧華族のお屋敷に居候したことで幕が上がりました。“お屋敷”には人生を狂わせる何かがあるのかもしれません。などと、つい“お屋敷”が舞台になった物語に手が伸びてしまいます。

 お気に入りの一冊を携えて、新緑の木漏れ日を感じながら、ロマンや妄想をかき立てるお屋敷散歩に出かけませんか?

奥村知花
本しゃべりすと。書籍PRに携わり、書評エッセイや『紀伊國屋書店』ウェブサイトの特集記事など執筆。

※本記事は週刊アスキー5/21号(5月7日発売)の記事を転載したものです。

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