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【私のハマった3冊】手塚治虫を描いたコミック3冊 同じエピソードを読み比べる

2014年07月12日 17時00分更新

987BOOK

漫画「手塚治虫物語」
アニメの夢 1960~1989

著 伴俊男+手塚プロダクション
金の星社
4104円

ブラック・ジャック創作秘話
手塚治虫の仕事場から

著 宮崎克、吉本浩二
秋田書店
700円

チェイサー 1
著 コージィ城倉
小学館
596円

 

 どれも手塚治虫について描かれたマンガである。

 手塚のスタッフによって描かれた“正史”ともいうべきなのが『手塚治虫物語』で、手塚に会ったことさえない原作家とマンガ家が取材を通して手塚像をつくり直したのが『ブラック・ジャック創作秘話』。そして「手塚治虫ってつまんないマンガいっぱい描くよなァ」とクサすようなことを言いながら手塚のことが気になってしょうがなくて、手塚のやったことをマネしてみるヘンなマンガ家(架空)・海徳光市を主人公にしたのが『チェイサー』である。

 同じエピソードや話題がこれらの3作品でどのように描かれているか、その違いを見るのが楽しい。

 例えば、手塚が『アトム』のアニメ化の大成功の後に、『W3(ワンダースリー)』を制作するのだが、裏番組で円谷プロの特撮『ウルトラQ』が始まってしまう。手塚の子どもたちまで放映時間になると「『ウルトラQ』が見たい」と言って騒ぎ出す。

 手塚を前にして妻は子どもたちに「お父さんの番組を見なさい」と叱るのだが、手塚は「子どもたちには見たい番組を見せなさい」と一喝する。

『物語』では、手塚は理性的な父親としてたしなめるように言う。ところが『秘話』ではまったく違う。狂気じみた顔でこのセリフを叫んでいる。そして、息子がかじりつくように『ウルトラQ』を観ている姿を燃えたぎるような嫉妬心で見ている手塚がそこにいるのである。

『チェイサー』は、例えば『アトム』のアニメ化成功をどう描くか。作中でアニメ会社の人間に『アトム』のアニメ技術としての“ひどさ”を語らせるのだ。枚数が少なく動きがぎこちない、絵の使い回し……にもかかわらず視聴率が高いのは、原作がおもしろく、大人を巻き込んでいるからだ、という。このように第三者の目で批評的に描かれるのが『チェイサー』のおもしろさだ。

 ぜひ読み比べてみてほしい。
 

紙屋高雪
漫画評・書評サイト『紙屋研究所』管理人。著書に『オタクコミュニスト超絶マンガ評論』(築地書館)。

※本記事は週刊アスキー8/12増刊号(7月7日発売)の記事を転載したものです。

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