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【私のハマった3冊】ウィキペディアではわからない 石原慎太郎、ラッセンの事実

2013年09月15日 14時00分更新

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石原慎太郎を読んでみた
著 豊崎由美、栗原裕一郎
原書房
1890円

ラッセンとは何だったのか?
編著 原田裕規
フィルムアート社
2310円

ニッポン定番メニュー事始め
著 澁川祐子
彩流社
1575円

 小説家としての石原慎太郎ってどんな存在なのか。1冊目『石原慎太郎を読んでみた』は、彼の文芸作品に、慎太郎嫌いで知られる豊崎由美と資料収集の鬼である栗原裕一郎が実際に挑んでみたというもの。

 慎太郎には『太陽の季節』、『スパルタ教育』、『NOと言える日本』、『弟』と、時代をまたぐ4冊のベストセラーがあるというのに驚く。それだけでも慎太郎は怪物。この本は、慎太郎小説作品の解説にとどまらず、戦後の文芸誌、消費文化史、芸能史などを紐解いていく。

 次に紹介するのは、『ラッセンとは何だったのか?』

 ラッセンはあのイルカの絵でおなじみの画家。ラッセンやヒロ・ヤマガタの絵は、世間ではよく知られているが、美術業界では、嫌われている。ミステリにおける西村京太郎、赤川次郎と同類といったところか。

 本書は、複数著者のラッセン論集。あえて、美術の文脈でラッセンを解析しようという試みや、消費社会とアートの関係が語られる。過去にラッセンのファンだったという斉藤環のラッセンとヤンキー話がおすすめ。

 カレーライスやコロッケ、牛丼にインスタントラーメン。日本人の身近な食の起源を書いた本、という説明だと、「それってウィキペディアでわかるのでは?」と思ってしまうかもしれない。でもそれは大間違い。『ニッポン定番メニュー事始め』で語られるのは、料理の定説や自称“元祖”といったものが、実はことごとくウソであるという事実である。本書はその前提を疑い、古い資料を元に、間違った通説を覆していく。本書を通して理解できるのは、自己流にカスタマイズするという才覚に長じる我らが国民性。

 今回挙げた3冊には、手のかかることを、あえてやったという共通点がある。しかもその人にしかできないことでもある。ネットにいくらでも情報がある時代にあえて本を手に取らせる本ってそういうことなのだ。

速水健朗
フリー編集者・ライター。主著『ラーメンと愛国』、『都市と消費とディズニーの夢』、共著『ジャニ研!』。

※本記事は週刊アスキー9/24号(9月10日発売)の記事を転載したものです。

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