しんきらり
著 やまだ紫
小学館クリエイティブ
1890円
アンナ・カレーニナ 1
著 レフ・ニコラエヴィチ・トルストイ
光文社古典新訳文庫
1020円
愛はなぜ終わるのか
―― 結婚・不倫・離婚の自然史
著 ヘレン・E・フィッシャー
草思社
1937円
「ウエディングケーキは、この世で最も危険な食べ物である」。これが理解できるのは、結婚してからずっと後(遅効性なのだ)。解毒の三冊を紹介しよう。ネット書店で“結婚”というキーワードで検索できるような、お手軽サプリではない(すぐ効く薬は、すぐ効かなくなる)。
まず『しんきらり』。淡々と過ぎ行く毎日に、亀裂が広がる瞬間を、ヒヤリと鋭く描く。そのとき妻が何を思い、どう堪えている(または吐き出している)かが見える。仕事という避難所に逃げ込む夫を卑怯だと思い、家庭という入れ物に取り残されているように感じる。日常をつくろいながら、夫への不信と忌々しさをあぶりだす。夫婦という間柄は変わらないのに、その中身がどんどん変わっていく矛盾は、軋轢や葛藤で噴出する。
次は『アンナ・カレーニナ』。これで結婚、捗るぞ。人生を滅ぼした女の悲劇から学べることは、この一言→「女とは愛すべき存在であって、理解するためにあるものではない」。体裁を繕ったり、感情に論理で応じたり、優越感ゲームや詭弁の駆け引きは、“べからず集”として読むべし。さらに、もう一人の主人公、リョーヴィンの物語に焦点を当てるなら、プライドに七転八倒するジコチューが、“最高の結婚”まで至るまでの極上エンタメになる。
最後は『愛はなぜ終わるのか』。反面教師として“愛はどのように始まるか”、“愛の終わりをどうすれば避けられるのか”がわかる。恋愛感情がアンフェタミンの一過性の作用なら、好きだと思ったときに結婚しないと「なんでこの人を好きになったんだろう?」と醒めてしまう。結婚後の肝は“変化”、互いに影響を与え合うことで、変化していくのが夫婦なのだ。
結婚はスタートなのだ、ゴールではなく。これに気付くだけで、ウエディングケーキが滋養になる。なおこの三作は、結婚後に読んでも間に合うぞ。安心して服用してくださいませ。
Dain
古今東西のすごい本を探すブログ『わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる』の中の人。
※本記事は週刊アスキー5/28号(5月14日発売)の記事を転載したものです。
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