パンドラの匣 (『正義と微笑』収録)
著 太宰治
新潮文庫
562円
生きる悪知恵
正しくないけど役に立つ60のヒント
著 西原理恵子
文春新書
864円
翻訳家じゃなくてカレー屋になるはずだった
著 金原瑞人
ポプラ文庫
583円
甘やかな金木犀の薫りが鼻をくすぐりだしたら危険のサイン。薫りはどこまでも、私のあとをついてくるし、街路樹の葉は色づき、はらりはらりと降ってくる。この季節はいつもメランコリックな感情にとらわれがちだ。だから毎年、必死で抵抗するのである。得体の知れないものに振り回されるのは、ムダだもの。
太宰治の『正義と微笑』は、私のバイブルだ。中でも主人公の師の言葉が印象的で、内容はだいたいこんな感じ。「一生懸命勉強した先に残るのは、ひとつかみの砂金のみである。大事なことは、そんな経験こそが、心を広く耕し、愛することを教えるのだ。だから一生懸命学べ。そしてそれを全部役立てようと焦るな」といったもの。一見、ムダや遠回りとも思えることも、ひっくるめて素晴らしいのだと教えてくれる作品である。
“効率や結果がすべて”といったものばかりに価値をおく、そんな社会に息苦しさを感じたら『生きる悪知恵 正しくないけど役に立つ60のヒント』を読むのが良い。読者からの悩みに対して西原理恵子が相談にのった、人生指南の書である。ものは考えようで、柔軟に視点を変えるだけで、悩んでいるのがバカらしくなってしまう。サイバラ流に視点を変えてみたら、あら不思議。メランコリーでも、アンニュイでも、ハマって、ドツボってみるのも悪くないのかも。憂鬱の底の底からでも、何かが見えるのならば、それもまた良し、なんて思えてくるのである。
金原瑞人の『翻訳家じゃなくてカレー屋になるはずだった』の終盤にある、『「書く」ためにすべきこと』と題されたエッセイは、たったの3ページで私のお尻を叩く。「基礎の反復練習こそがすべてなり」と、いずれの世界においてもの“基本中の基本”を再確認させるのだ。小さくても、強烈に輝く何かを手にしたくば、素人考えでムダと切って捨てずに、ただただ真摯に取り組むしかないのだ。前に進んで歩むしかない。
奥村知花
成城大学卒。書籍のPRに携わりつつ、”本しゃべりすと”として書評の執筆やラジオにて書籍紹介など。
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562円
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※本記事は週刊アスキー11/11号(10月28日発売)の記事を転載したものです。
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