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【私のハマった3冊】スーパーヒーロー、怪獣、吸血鬼が本当に存在したら

2015年04月04日 21時00分更新

1023BOOK

完璧な夏の日 上・下
著 ラヴィ・ティドハー
創元SF文庫
各1080円

MM9
著 山本弘
創元SF文庫
929円

ヴァンパイア・サマータイム
著 石川博品
ファミ通文庫
648円
 

 テレビの中のスーパーロボットが兵器として実在したらどうなるか……そんな問いから生まれた『機動戦士ガンダム』はアニメに革命を起こし、リアルロボットものという新ジャンルを築き上げた。今回取り上げるのは、そんな○○が現実にいたら……という、“リアル系”の想像力で描かれた3冊だ。

 まずはスーパーヒーローのいる世界……といっても今回は定番のアラン・ムーア『ウォッチメン』ではなくラヴィ・ティドハーの『完璧な夏の日』をご紹介。第二次世界大戦前夜に突如、誕生した超人……ユーバーメンシュたち。異能の力を持ち、年を取らない彼らは、第二次大戦、ベトナム、アフガン、そして911へと続く、戦争の世紀たる20世紀の目撃者となる。終わりのなき戦いの日々に救いはあるのか。アメコミヒーローと英国流スパイ小説が融合した、泣けるハードボイルドだ。

 一方、日本には怪獣がいた。山本弘『MM9』は、巨大生物の襲撃に晒(さら)される怪獣大国・日本で、これに立ち向かう公務員の物語。気象庁特異生物対策部……略して気特対の面々は予算不足に喘(あえ)いだり、仕事とプライベートの両立に悩んだり、あるいはマスコミ対策もこなしながら、今日も納税者のため怪獣と戦う。公務員の世知辛さをアクセントに描く本格特撮小説だ。

 最後の石川博品『ヴァンパイア・サマータイム』は夜の世界に住むリアル吸血鬼が昼の世界に住む人間と共存する現代が舞台。吸血鬼の側も普通の社会生活を営んでいるから、例えば学校では昼は人間が、夜は吸血鬼が交替で授業を受ける。そんな昼と夜に分かれた教室で、吸血鬼の女の子に恋した人間の少年が繰り広げる、距離でなく時間で別れた遠距離恋愛小説だ。

“お約束”で“様式美”な存在が「もし本当に存在したら?」という問いを向けたときに見せる意外な姿。“リアル系”の視線が見せてくれるその新鮮な驚きが、筆者は大好きである。
 

 

前島賢
ライター。SF、ライトノベルを中心に活動。著書に『セカイ系とは何か』(星海社文庫)がある。

※本記事は週刊アスキー4/14号(3月31日発売)の記事を転載したものです。

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