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【私のハマった3冊】年齢や時代ごとにあこがれたヒロインの生き方を再読する

2015年03月20日 15時00分更新

1021BOOK

恋形見
著 山口恵以子
徳間書店
1836円

痴人の愛
著 谷崎潤一郎
新潮文庫
724円

櫛挽道守
著 木内昇
集英社
1728円
 

 縁あって山口恵以子の『恋形見』を読んだ。幼い頃の仄(ほの)かな恋心と決意を胸に、主人公おけいが、実家の小さな店を江戸一番の大店にしていく、時代小説の細腕繁盛記である。

 おけいの恋心は、なかなか報われそうもないのに、孤軍奮闘するさまが、なんともいじらしく切なくって「ええい! 物語に飛び込んで、私が助太刀してつかまつる!」なんて思ってしまうのだった。この、おけいちゃんの“私がなんとかしなくっちゃ気質”と20代前半時分の自分と重ねてしまって、ふと思った。年齢や、その時代時代に、シンパシーを感じたり、あこがれを抱いたヒロインを中心に、再読してもおもしろいかもしれない。

 中学時代、大人たちから「まだ早い」なんて言われながらも読んだ谷崎の『痴人の愛』。ヒロインのナオミは、圧倒的な美しさで、傍若無人ぶりを許されていた。今、読み返してみると、「若くって綺麗で許されるって怖いナ。ジョージ、しっかりしろ! 目を覚ますんだっ」などと思ってしまうのだけれども、そんなナオミにあこがれたのは、思えば、私が三人姉妹の真ん中で、もっと天真爛漫にいたいと願っていたからやもしれぬ。ふむ。

 時は過ぎ、だいぶお姉さんになった大学時代は、浅田次郎の描く“三歩下がって自己犠牲”タイプのヒロインにあこがれた。しかし、いくらなりたいとは思えども、なかなかそうもいかぬ。

 恋愛や、仕事における“がむしゃら期”を退き、40代となった最近では、自意識にもがいている最中のヒロインに、不思議と目が向くのだ。幕末の木曽山中で父の背中を見つめて職人をめざした『櫛挽道守』の登瀬だ。生きていくのって大変。自意識や後悔、いろんな煩わしさがある。でも、それって自分以外でも、誰もが抱えている問題なんだよね。と、ついお姉さん風吹かしたくなるのである。というわけで、すべてのヒロインに向けて、こんな言葉を贈りたい。

 ガールズ ビー アンビシャス!

奥村知花
成城大学卒。書籍のPRに携わりつつ、“本しゃべりすと”として書評の執筆やラジオにて書籍紹介など。

※本記事は週刊アスキー3/31号(3月17日発売)の記事を転載したものです。

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