フォーナイン~僕とカノジョの637日~ 1
著 莉ジャンヒュン
小学館
596円
神聖喜劇 第一巻
著 大西巨人、のぞゑのぶひさ、岩田和博
幻冬舎
480円(Kindle版)
大砲とスタンプ 1
著 速水螺旋人
講談社
617円
今回は軍隊の“日常”を描いたマンガを3つ紹介する。
まずは『フォーナイン』。シンプルに、韓国の徴兵と軍隊を描いたルポだと思ってもらえればよい。シゴキ、いじめ、暴力がぼくの想像する軍隊であるが、本作はこの予想そのまんまだ。義務として約2年、こんな世界に放り込まれる韓国と、その義務がない日本。その違いに思いを馳せずにはいられない。
2つ目は、大西巨人の小説をコミカライズした『神聖喜劇』。戦前の旧日本軍に入営した“私”が主人公である。こちらは先ほどの軍隊イメージと逆だ。軍隊とは暴力の荒れ狂う無法地帯ではなく、官僚機構であり、法令でがんじがらめにされた存在だ、と本作は主張する。主人公は、軍隊で出遭う不条理に対して、驚異的な記憶力で覚え込んだ法令をタテに抵抗していく。旧軍では、金玉をズボン下の左右どちらに納めるかまで定めてあり、まじめに論争する主人公や同年兵と、上官上級者とのやりとりの細かさにつきあっていると、思わず笑いさえこみあげてくる。理屈でやりこめられる上官たち。その抵抗は痛快だ。“戦後文学の金字塔”とまでいわれる本作だが、ぼくは“ヒーローもの”として読み、主人公のカッコよさに身震いしてしまった。
3つ目は『大砲とスタンプ』。軍隊の中でも兵站(へいたん)、つまり物流などを担当する部署を描いた架空戦記だ。書類と規則にうるさい主人公の女性少尉が、石頭なまでにこだわりをみせる。弾薬を積んだ新鋭艦を輸送する任務の最中、敵の攻撃を受けるが少尉は戦闘途中で反撃をやめる命令を出す。輸送すべき弾薬が規程数以下になってしまうからだ……。軍隊が法令でしばられたタテマエの存在であることを、笑いの中で浮かび上がらせる。
昔の学習マンガのように、丸っこくて明瞭な線で描かれる兵器や日用品に、作者の“モノ”への愛情、というか偏愛がのぞくのも本作の見所である。思わず模写しちゃったよ。
紙屋高雪
漫画評・書評サイト『紙屋研究所』管理人。著書に『オタクコミュニスト超絶マンガ評論』(築地書館)。
※本記事は週刊アスキー5/5号(4月21日発売)の記事を転載したものです。
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