終戦のエンペラー 陛下をお救いなさいまし
著 岡本嗣郎
集英社文庫
714円
風の男 白洲次郎
著 青柳恵介
新潮文庫
452円
GHQ 焚書図書開封
著 西尾幹二
徳間書店
1785円
ものごとは、見る方向を変えてみると何とおりもの意見がある。身近なものなら、一時期世論を賑わせた“満員電車のベビーカー”問題などがそれだ。“政治”や“国家間”問題なども立場を変えて考えてみれば、また違ったものが見えてきます。というわけで、終戦のこの時期、GHQをテーマに選んでみました。
現在公開されている映画の同名原作『終戦のエンペラー 陛下をお救いなさいまし』は、マッカーサーの副官ボナー・フェラーズと河井道との交流をとおしてつづられた、“天皇の戦争責任追及の回避”の舞台裏を紹介したノンフィクション。そのフェラーズが属したGHQに“従順ならざる唯一の日本人”といわしめた人物、白洲次郎の評伝『風の男 白洲次郎』では、憲法改正草案作成におけるやり取りが記されています。GHQの提示した草案を受け入れることこそが「戦犯として天皇を取り調べようという“圧力”から天皇を守ることにつながる第一歩」とのGHQ見解に対し、敗戦国である日本の立場からどのように草案をまとめあげるか、読み応えのある一冊になるでしょう。
『GHQ焚書図書開封』は、没収された図書を紹介しながら、七千冊以上にものぼる焚書によって生じた“日本現代史の空白”に警鐘を鳴らす内容ですが、“天皇制廃絶”を大統領に進言し、焚書を推し進めたであろう人物、GHQ外務局長のジョージ・アチソンにも触れています。“焚書とは歴史・文化の没収である”という厳然たる事実を前に、戦慄することなく推し進められた、この計画によってGHQの思惑に迫るミステリーと言っても過言ではありません。
日々を暮らす、生活するということは、どうしたって他者と交わらずには生きていけません。蝉の音と共にまとわりつく、この湿気や暑さのように、煩わしく思う時だってあります。そんな中、視点を変えて他者に思いを馳せてみるきっかけに一役買ってくれた三冊でした。
奥村知花
成城大学卒。“本しゃべりすと”として、新刊書籍のパブリシティに携わりつつ、書評エッセイなど執筆。
※本記事は週刊アスキー9/10増刊号(8月5日発売)の記事を転載したものです。
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