読書について
著 ショーペンハウアー
光文社古典新訳文庫
780円
贅沢な読書
著 福田和也
ちくま文庫
777円
本を読む本
著 モーティマー・J・アドラー、チャールズ・ヴァン・ドーレン
講談社学術文庫
945円
本を読む愉しさを知ったばかりの子供の頃、次から次へと児童小説の新刊を手にし、貪り読んでいた私に、祖母が「何でも読めば良いのと違う」とひと言。大正生まれの祖母にとって、小学四年生くらいの少女が読むべき本は『小公女』や『千夜一夜物語』といった名作しかないといった具合だった。
ふと、こんなやり取りを思い出したのは、ドイツの哲学者ショーペンハウアーによって書かれた『読書について』を読んだからに他ならない。
「読書とは自分でものを考えず、代わりに他人に考えてもらうこと」。よって「多読に走ると、自分の頭で考える力が失われゆく」と、耳の痛い警鐘をガンガン鳴らし、ハッとさせられることが満載の一冊である。ショーペンハウアーや祖母の意見に反して、幼い時分の私を正当化するならば、まだ自分でものごとを考えて判断するのに未熟なら、どんな本でも多読して、とにかく“読書することの面白さ”や“いろいろな考えがある世界”を知る良い機会だったと思う。しかしながら、成熟し、何が素晴らしく、何が胸を打つか、自分で咀嚼して考えるようになったら、それは別の話。言葉の受け売りのみの大人は醜いだけ。
珠玉の書物の数々と併せて“正しい読書”について紹介している福田和也の『贅沢な読書』や、微に入り細を穿つ文章の進め方で“知的かつ積極的に読むための規則”を述べることで“すぐれた読書家”への道筋を紹介したモーティマー・アドラーとチャールズ・ドーレンの『本を読む本』もまた、“正しく本と向き合う”姿勢の重要性を再認識させてくれるはず。
速読や情報処理といった、昨今の読書の流行にとらわれず、栄養ある食物をよく噛んで飲み下すかのごとく、“贅沢で享楽的な読書”を楽しむ心構えを意識しながら、物語に耽るのもまた、ジメジメと籠りがちになる梅雨時の楽しみ方のひとつなのかも知れません。
奥村知花
成城大学卒。“本しゃべりすと”として、新刊書籍のパブリシティに携わりつつ、書評エッセイなど執筆。
※本記事は週刊アスキー6/25号(6月11日発売)の記事を転載したものです。
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