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【私のハマった3冊】母親の孤独と暴走が重い 今年一番衝撃を受けた1冊

2013年04月26日 15時00分更新

私のハマった3冊

コアソビー
著 おおひなたごう
集英社
1200円

さきくさの咲く頃
著 ふみふみこ
太田出版
1000円

母親やめてもいいですか
著 山口かこ、絵 にしかわたく
かもがわ出版
1470円

 ゴールデンウィーク目前。お供にしたいマンガをお考えのあなたに、1巻完結、ジャンルバラバラの3作品を紹介しよう。

 まずは、おおひなたごう『コアソビー』。4歳の息子との遊び方の開発史をつづったエッセイマンガである。ぼくも5歳の娘がいるのでわかるけど、子どもの遊びにド真剣につきあうと、疲れるし退屈なのである。ところがおおひなたは、自分も楽しみながら息子と遊べる方法を次々開発していくのだ!……って書くとすごい成功譚のように聞こえるが、実際は失敗の連続。その失敗と苦労が、大人のギャグマンガとして楽しめる。

 次に『さきくさの咲く頃』。美男美女の双子と、その幼なじみの女の子が主人公だ。高校生の三角関係などという、ありふれているにも程がある素材を、なぜかくも上手く描けるのか。素朴な絵本のように簡潔な絵とセリフは、不要なものを削ぎ落とし、傷ついた心の痛みや、セックスの生々しさ・空虚さを、逆に鋭くえぐり出す。

 最後は、『母親やめてもいいですか』。発達障害児と診断された母親の体験なのだが、“コミックエッセイ”と言うにはあまりに重い内容である。専門家のインタビューなども載り、発達障害の啓蒙書の役割も担っている。しかし、勘違いしてはならないと思うのは、本書においては発達障害であること自体が重いのではなく、そのことをひとりで抱えてしまった母親の孤独と暴走が重いということなのだ。

 実は、作者の夫も、夫の実家も、かなり理解があるとぼくは感じた。そして、話せる友人もいた。にもかかわらず、作者は問題をひとりで抱え込み、破滅へとひた走っていくのである。ひとことで言えば、上手に助けを求められないのだ。これは障害児の親という問題をこえて、“自己責任”の呪縛で不幸に沈んでいくという普遍的なテーマのように思えた。まだ4月だが、今年読んだマンガの中で一番衝撃を受けた1冊である。

紙屋高雪
漫画評・書評サイト『紙屋研究所』管理人。著書に『オタクコミュニスト超絶マンガ評論』(築地書館)。

※本記事は週刊アスキー5月7-14日合併号(4月22日発売)の記事を転載したものです。

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