2011年12月12日21時00分

【私のハマった3冊】“演歌は日本の心です”は本当か? 意外と知られていない日本の音楽史

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演歌よ今夜も有難う
著 都築響一
平凡社
1995円

創られた「日本の心」神話
著 輪島裕介
光文社新書
998円

上を向いて歩こう
著 佐藤剛
岩波書店
2100円

 これまで若者の部屋、秘宝館、ヤンキー文化など、さまざまなものにスポットを当ててきた都築響一。『演歌よ今夜も有難う』では、自前でCDを制作しスナックや健康ランドなど、マイナーな場所で歌い続けるインディーズの演歌歌手たちを追っている。そこに登場するのは、78歳にして歌手デビューした芸能界の生き字引がいたり、路上で歌いながら募った食糧をみずから紛争地域へ届ける活動を続けている人がいたりとじつに多彩だ。

 演歌といえばインディーズ、メジャーを問わず、歌手みずから地道なプロモーションを続けながら持ち歌をヒットさせるという売り方が定着している。輪島裕介『創られた「日本の心」神話』によれば、こうした事例の先駆けは、1963年のレコード発売から2年をかけて売上が50万枚を超えた一節太郎の『浪曲子守唄』だという。歌の平均寿命は3ヵ月といわれていたこの時代、このように長期間をかけてのヒットはむしろ異例だったようだ。

 そもそも“伝統的”で“真正な日本文化”だと思われている演歌というジャンル自体、昭和40年代に成立したものにすぎないと、輪島は膨大な事例をあげながら証明してゆく。そのなかで、演歌成立以前のレコード歌謡がいかに雑多な出自(そこには邦楽だけでなく、ジャズなど洋楽の要素も多分に含まれる)を持っていたかが強調される。

 ジャズピアニスト出身の作曲家・中村八大は、当初、歌謡曲があまり好きではなかったという。だがそうしたジャンル分けにとらわれず、本当に人を感動させる音楽をつくろうと悟ったところから『上を向いて歩こう』(歌・坂本九)などの名曲が生まれた。佐藤剛『上を向いて歩こう』はこの曲のあまたの謎を解くとともに、同曲を世界の音楽史のなかに位置づけてみせる。たとえば中村と作詞家の永六輔コンビによる曲づくりがビートルズのそれとよく似ていたとの指摘は、日本のロック史に変更を迫るものではないだろうか。

近藤正高
歌謡曲やマンガなど戦後日本の大衆文化に関心を抱くライター。著書に『新幹線と日本の半世紀』など。

※本記事は週刊アスキー9月20-27日 10月4日合併号(9月6日発売)の記事を転載したものです。

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