SHELTER dogs シェルタードッグズ
著 トレア・スコット
山と溪谷社
3024円
フランダースの犬
著 ウィーダ
新潮文庫
432円
星守る犬
著 村上たかし
双葉社
823円
犬は人の最良のパートナーと言うが、人間好みに改良を重ねてきた結果にすぎぬ。犬は犬として最適に生きようとしているのであって、名犬・忠犬のレッテルは人の都合で貼ったもの。そこに自らの感情を投影して感傷に浸るのは、人間の悪い癖だ。にもかかわらず、犬の瞳に、私は何かを探そうとする。いわば瞳を鏡とすることで、自分自身を覗き込む。そういう、犬を通じて人を知る三冊を選んだ。
まず『シェルター・ドッグズ』、様々な理由で飼い主を失った犬たちのポートレイト集だ。捨て犬とは違い、犬たちには名前があり、ここに来るまで家族がいた。モノクロームに写る瞳には、愛嬌や思慮、情熱や機知が映りこんでいるが、それは私の勝手な想像だ。新たな飼い主が見つからない場合、殺処分されることを知っている私が、知らない犬たちに向けた感傷にすぎぬ。それでも魂の力を感じとってしまう、そんな瞳に出会える。
次は『フランダースの犬』。児童文学の名作だが、大人が読むと“プライドがパトラッシュを殺した”話になる。絵の対価を受け取ろうとしない気位の高さに腹が立ち、初応募で入選を信じる芸術家気質にイラつく。大金の入った財布を届けるという手柄を立てたのに、「空腹で吹雪で帰る家がなくなったから、一晩泊めて」となぜ言えぬ。一度の挫折で死ぬ気まんまんのネロに、“かわいそうだから殺す”作者が透け見えて不快。死んだのが少年だけだったなら、名作になりえなかっただろう。そう、ネロの傍に、冷たくなったパトラッシュがいたからこそ、涙が止まらないのだ。
そして『星守る犬』、これはあらゆる意味で反則の号泣本だ。貧乏は人を殺すかもしれないが、人の都合は犬を殺す。にもかかわらず、犬の行動を見て人はそこに忠義や愛情を読み取ろうとする。まったくもって救われない。やりきれない感情は、続編で見事にすくい取られているので、あわせて読むべし。
Dain
古今東西のすごい本を探すブログ『わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる』の中の人。
※本記事は週刊アスキー12/16号(12月2日発売)の記事を転載したものです。
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