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【私のハマった3冊】オーバー40からじわじわくる 人生の“手遅れ感”を予行練習

2013年07月13日 13時00分更新

939BOOK

タタール人の砂漠
著 ブッツァーティ
岩波文庫
882円

変身/掟の前で 他2編
著 カフカ
光文社古典新訳文庫
440円

新訳 チェーホフ短篇集
著 アントン・チェーホフ
集英社
1680円

 人生は選択の連続だというが、選択肢の大半は前半に集中していることに気づかない人が多い。これはギャルゲと一緒で、前半に選んだヒロインに沿って後半のイベントが進んでいく。選ばれたシナリオは後戻りできず、これは人生と一緒。オーバー40から人生の手遅れ感がじわじわくる。“四十而不惑”の本意は、めぼしい選択肢がなくなりましたという意味なのだ。読書が一種のシミュレーションなら、これは人生の、しかも自分の人生の“手遅れ感”の予行演習になる。そんな三冊を選んだ。

『タタール人の砂漠』は、辺境の砦を守る兵士の話。いつ来襲するかわからない敵を待ちながら、宙づりになった日常に埋没してゆく。話が進めば進むほど、加速度的に時が流れる構成が見事で、ラストでは、かけがえのない人生を失った“取り返しのつかない”感覚に呑み込まれる。日々の積分こそが人生であり、時とは、命を分割したものだということを痛感させてくれる。「これが自分の人生でなくて、本当によかった」とね。

 カフカは後悔を加速する。特に『掟の前で』は強烈で、"なにか"を待つのが日常である限り、いつまでたっても、"人生"は始まらないことが沁みてくる。許可を待つ間に、時は飛ぶように流れ去り、気づいたら門が閉められようとしている。この“掟”は真理とか正義など、さまざまな解釈があるが、掟の前で“待ち続ける”メタファーに注目しながら読むべし。

 選ぶことにより、選ばなかった方は“なかった”ことになる。たくさんの“なかった”ことを抱え込んでいる人ほど、『チェーホフ短篇集』を愉しむことができる。自分の過去と照らし合わせながら、ほくそ笑んだりチクっとなったり。白眉は『いたずら』、ギャルゲのようにエンディングが選べるけれど、どちらも甘くて苦くて萌えるぞ。

 この三冊、若い人こそ読んで欲しいが、ピンとこないうちが幸せなのかも。

Dain
古今東西のすごい本を探すブログ『わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる』の中の人。

※本記事は週刊アスキー7/23号(7月9日発売)の記事を転載したものです。

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