2012年08月21日13時00分

【私のハマった3冊】変声楽器ボコーダーから“しゃべる機械”初音ミクをたどる

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エレクトロ・ヴォイス
著 デイヴ・トンプキンズ
スペースシャワーネットワーク
3360円

謎のチェス指し人形「ターク」
著 トム・スタンデージ
NTT出版
2520円

ボーカロイド現象
編 スタジオ・ハードデラックス
PHP研究所
1680円

 扇風機に向かってしゃべると宇宙人やロボットのような声に変わる。子供のころにやった人も多いだろう。『エレクトロ・ヴォイス』に登場するアメリカのアーティスト・ラメルジーも、少年時代に扇風機で声を変える楽しみを覚えたひとりらしい。

 本書は、テクノミュージックなどでおなじみの変声楽器、ボコーダーの歴史をひもといたものだ。それによれば、ボコーダーはもともと1928年にベル研究所が発明、その後第二次大戦中に盗聴防止のためさらなる開発が進められた。時の英首相チャーチルと米大統領ルーズベルトもボコーダーを介して、頻繁に電話会談を行なったという。このほか本書には、冷戦下のソ連でスターリンの命を受け、ソルジェニーツィン(のちのノーベル賞作家)が政治犯収容所でボコーダーの開発に携わった話など意外なエピソードが満載だ。

 ボコーダー開発からは、1939年のニューヨーク万博に出展された“ヴォーダー”のような“しゃべる機械”も派生した。ただし発声機械の研究自体はもっと昔からあった。『謎のチェス指し人形「ターク」』は18世紀にオーストリアで発明された、人間とチェスを対戦するロボット“ターク”の正体に迫った本だ。タークの発明者ケンペレンは、しゃべる機械の研究にも没頭した。その試作品を見た詩人のゲーテは「多弁ではないが、子供の使うような言葉をうまく発音できる」と評している。

 現代のしゃべる機械といえば、初音ミクを生んだ歌声合成エンジン“ボーカロイド”が思い浮かぶ。『ボーカロイド現象』ではその開発者が「現状では人間の実際の歌唱の半分も再現できていない」として、さらなる改良を目指す旨を語っているが、いっぽうで現在のボーカロイドの歌声に愛着を抱く人も少なくないはずだ。人間の肉声とのズレみたいなものを楽しむという意味では、初音ミクに歌わせるのも、扇風機に向かってしゃべるのも同じなのかもしれない。

近藤正高
ライター。この秋よりウェブ上で新連載を開始予定。また『新幹線と日本の半世紀』に続く著書も準備中。

※本記事は週刊アスキー8月14日号(7月31日発売)の記事を転載したものです。

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