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【私のハマった3冊】ビジュアルあっての巨大ロボットに独自アプローチで挑む文芸作品

2011年03月29日 07時00分更新

BOOK

番狂わせ 警視庁警備部特殊車輛二課
著 押井守
角川春樹事務所
1575円

応答せよ 巨大ロボット、ジェノバ
著 杉作J太郎
扶桑社
1575円

ダイナミックフィギュア 上・下
著 三島浩司
早川書房
各1890円

『機動戦士ガンダム』を代表に、アニメをはじめゲームやマンガでも日々、新作が出撃する巨大ロボットもの。ところが、小説では鬼門と言われている。笹本祐一『ARIEL』や賀東招二『フルメタル・パニック!』など少数の例外はあれ、やっぱりロボットというのはビジュアルあっての存在だからだろう。しかし、そんな巨大ロボット小説に、独自のアプローチで果敢に挑む文芸作品があった。しかも三冊。

 一冊目はアニメ監督・押井守の『番狂わせ 警視庁警備部特殊車両二課』。あの『機動警察パトレイバー』の続編だ。サッカーチームへのテロに、新生レイバー隊が立ち向かう……はずが、えんえんサッカー戦術のウンチクが繰り広げられる実に押井監督らしい小説になっている。主役メカのレイバーはほとんど活躍せず、巨大ロボなんてアニメの中の与太話、といったセリフまで飛び出す。それを言っちゃお終いでしょうよ……。

 一方、マンガ家でタレントで映画監督……な杉作J太郎『応答せよ巨大ロボット、ジェノバ』。極秘裏に建造された地下基地から出撃する巨大ロボ・ジェノバ。操縦者は14才の少年じゃなくて42才の中年・並木。元プロレス実況解説者という経歴は杉作氏そのもの。早い話がロボットものの皮を被った私小説で、全編にわたって漂う中年の哀愁が不思議と胸打つ異色作である。

 そういう変化球じゃなくてド直球がほしいんだってアナタ、コレが真打ち、三島浩司『ダイナミックフィギュア』。異常な学習能力をもつ敵に対し、航空機を使用できなくなった人類は巨大ロボットを投入。遠隔操縦も可能な操作系、実在兵器との共同作戦、超兵器を巡る政治的謀略……考え抜かれた設定と綿密な考証が巨大ロボットという大ウソに、けれども確かな現実感を与えている。究極のリアルロボットSFとのアオリは伊達じゃない。もはや信仰にも似た巨大ロボットへの熱い思いが伝わってくる大作だ。

前島賢
ライター。SF、ライトノベルを中心に活動。著書に『セカイ系とは何か ポスト・エヴァのオタク史』。

 

※本記事は週刊アスキー826号(3/22発売)の記事を転載したものです。

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