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【私のハマった3冊】長いセリフで説明される世界 やみつきになる理屈っぽい漫画

2012年03月25日 16時30分更新

私のハマった3冊

ミュジコフィリア 1
著 さそうあきら
双葉社
800円

食の軍師
著 泉昌之
日本文芸社
620円

ぼくらのよあけ 1
著 今井哲也
講談社
650円

 セリフの多い漫画や理屈っぽい漫画は出来の悪い漫画と思われがちだが、さにあらず。逆にそれがやみつきになってしまう漫画も多いのだ。

 1つ目は『ミュジコフィリア』。京都の芸大生たちが現代音楽にとりくむ物語である。ぼくらがよく聴くクラシックやポップスのような様式や楽器が固定されている世界を離れ、音そのものの可能性を徹底的に追い求める。大工道具が奏でる音や庭全体がつくりだす音楽……といった具合に。その求道ぶりがまさに“音楽中毒者=ミュジコフィリア”なのである。理屈によって説明された音の世界が、感性のレベルにまで下りてくる、その不思議な感覚を味わってほしい。

 2つ目は『食の軍師』。『孤独のグルメ』や『花のズボラ飯』でヒットをとばした作家のグルメ漫画で、料理を前にしてアホみたいなセリフのオンパレードである。「おでんは注文の順番にそのおでん者の知力・能力・経験が現われると言われる 俺は『三国志』の軍師たちになぞらえそれを『おでんの兵法』と呼んでいる!!」、「納豆を切る勇気! 温泉卵の誘惑に負けない意思!! シリアルを断る意地!! あれも食べたいこれも食べたい そんな欲望に打ち勝ってこそバイキングの一本道は開けるのだ」などのバカセリフが200ページ近くにわたって展開されている。

 3つ目は『ぼくらのよあけ』。2038年の近未来の小学生たちが28年前に他の星から不時着した宇宙船を飛ばそうとする話である。SFなのでなにせ理屈っぽいのだが、物語の中心にあるのは、大人たちに秘密で熱中した子どもの頃の記憶、クラスで空気を読むのに疲れ果てるいじめの空気……といった、ぼくらにとっておなじみの気持ちに他ならない。そしてこの打ち上げにとりくむ中で、近未来の日常生活に珍しいものではなくなっている人工知能ロボットが、“人間”になる瞬間が描かれる。読者たるぼくらはその美しい一瞬に立ち会うことができる。

紙屋高雪
漫画評・書評サイト『紙屋研究所』管理人。著書に『オタクコミュニスト超絶マンガ評論』(築地書館)。

※本記事は週刊アスキー2月7日号(1月24日発売)の記事を転載したものです。

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