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【私のハマった3冊】データと理論からたどり着く真実 ビジネスを科学でとらえる3冊

2012年01月04日 13時00分更新

wambook

マネー・ボール
著 マイケル・ルイス
武田ランダムハウスジャパン
798円

世紀の空売り
著 マイケル・ルイス
文藝春秋
1890円

ビジネスマンのための「行動観察」入門
著 松波晴人
講談社現代新書
798円

 打率も打点も意味がない。野球選手が勝利に貢献しているかどうかを判断する上で重要なのは、出塁率と長打率だけである。大リーグの貧乏球団アスレチックスのGMビリー・ビーンは、こうした新評価基軸で全米の過小評価されている選手を集め、勝てるチームを作っていく。
 ブラッド・ピット主演で映画化されるこの『マネー・ボール』の原作は小説ではなく、ノンフィクションである。

 日本のスポーツノンフィクションは、人間ドラマに注目するものが多い。だが、本作のおもしろさは、人間ではなくデータ。バントも盗塁も試合には不利という常識外の理論をもって、チームはサプライズを見せていく。
 正しいデータと理論に基づいて、社会や経営を立て直すというのは、経済学の得意分野。『マネー・ボール』は、経済学の分野でも人気の高い名著。著者、マイケル・ルイスはアメリカのベストセラーノンフィクション作家だが、20代のころには金融界に身を置いていた金融通だ。

 そんなルイスの邦訳済み最新作は、リーマンショックで儲けた人々、つまり金融崩壊を予言していた人々を取り上げる『世紀の空売り』。スポーツと金融という一見、バラバラのテーマ。しかし、常識ではなくデータと理論からたどり着く真実というテーマで貫かれている。

 こうした視点をもち複数分野を扱うノンフィクション作家は、日本ではちょっと見当たらない。ただ似たような興奮を覚えたのが“行動観察”に関するビジネス書である。
 行動観察とは、サービス業において重要視される“勘と経験”といったデータにできない“暗黙知”を、人間工学、心理学などの科学を用いて分析しデータ化していくというものだ。
『ビジネスマンのための「行動観察」入門』は、その行動観察をサービスや生産性の向上に役立てようというノウハウ本だが、ビジネスを科学でとらえるノンフィクションとして楽しめる。

速水健朗
ライター、編集者。著書『自分探しが止まらない』ほか、新刊『ラーメンと愛国』(講談社現代新書)発売中。

※本記事は週刊アスキー12月6日号(11月21日発売)の記事を転載したものです。

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