昭和元禄落語心中 1
著 雲田はるこ
講談社
590円
寄席芸人伝 1
著 古谷三敏
中公文庫
800円
どうらく息子 1
著 尾瀬あきら
小学館
550円
落語や噺家を描いた漫画は実は結構ある。数年前にNHKの朝ドラを契機に落語ブームが起きて以来、最近とみに増えてきた。でもなかなか漫画として成功しない。今回はそのなかで出色の3作を紹介する。
まずは、雲田はるこ『昭和元禄 落語心中』(講談社)。刑務所を出た元ヤクザがムショで聞いた慰問落語に感動し、名人のもとへ弟子入りする。表紙を見てのとおり、大名人・有楽亭八雲のグラフィックが秀逸で、演じている姿が、これほど知的でツヤのある落語漫画をぼくは見たことがない。
次に、落語漫画の古典中の古典、古谷三敏『寄席芸人伝』(中央公論新社)。すべて架空の寄席芸人の伝記だが、「この芸人さん、本当にいたんですか」と聞く人が絶えないくらいリアリティーがある。フィクションではあるが伝記物語として完成されているのだ。落語の演目にからめながら、落語世界の空気を実によく伝えており、この作品を読んで落語ファンになったというぼくの知りあいも多い。落語漫画の頂点にあり、新作の落語漫画はこの作品を超えられるかどうかをバロメータとしているといっても過言ではない。
最後は、尾瀬あきら『どうらく息子』(小学館)。保育士をめざしていた主人公が、名人の落語にふれるうちについに弟子入りしてしまう話だ。これまで酒蔵という伝統世界の厳しさをウェットに描いてきた尾瀬の作風が、よい方向で活かされている。
他の落語漫画ではちょこちょこと描いて終わりの修業の“苦労話”が、湿っぽく、ねっとりと、徹底して描かれるのだ。
主人公の兄弟子が師匠に破門されかける。口もきいてもらえない。目すら合わせてもらえない。“透明人間”扱いだ。それでも辛抱して通いつめ、十日目にしてやっと“叱ってもらえた”嬉しさを描いたシーンに、不覚にもぼくは涙した。
落語自体に興味のない人もきっと喜んでもらえる3作だ。
紙屋高雪
漫画評・書評サイト『紙屋研究所』管理人。著書に『オタクコミュニスト超絶マンガ評論』(築地書館)。
※本記事は週刊アスキー10月11日号(9/27発売)の記事を転載したものです。
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