週刊アスキー

  • Facebookアイコン
  • Xアイコン
  • RSSフィード

【私のハマった3冊】タイムトラベルで歴史は変わるのか、変わらないのか?

2011年05月27日 20時00分更新

wambook

僕はビートルズ 4
漫画 かわぐちかいじ、原作 藤井哲夫
講談社
570円

タイムマシンのつくり方
著 広瀬正
集英社文庫
780円

新版 タイムトラベルの哲学
著 青山拓央
ちくま文庫
861円

 最近ツイッターを見ていたら、現在『モーニング』で連載中のマンガ『僕はビートルズ』が今後どう展開していくのか、読者があれこれ予想していておもしろかった。同作は、現代のビートルズのコピーバンド“ファブ・フォー”が1961年の東京にタイムスリップし、デビュー前のビートルズよりも先に『イエスタデイ』など彼らのナンバーを発表するという、いわば歴史の改変をテーマにしたものだ。単行本の第4巻ではついにビートルズの故郷・リヴァプールが登場、どうやら歴史が激変しつつあることがほのめかされ、ますます続きに期待をもたせる。

『タイムマシンのつくり方』は日本SFにおけるタイムトラベルものの先駆者・広瀬正の短編集だ。そのなかの一編、日露戦争を題材にした『敵艦見ユ』は、時代考証の緻密さなど『僕はビートルズ』に通じるものがある。ただ興味深いのは『敵艦見ユ』といい、同じく収録作でタイムトラベルによる先祖殺しを描いた『Once Upon A Time Machine』といい、最後の最後で歴史改変が回避されていることだ。

 はたしてタイムトラベルで歴史は変わるのか、変わらないのか? 『新版 タイムトラベルの哲学』ではいくつかの時間モデルをあげながら、この謎が考察される。このうち歴史改変が生じやすいのは、「未来はひとつだが、その内容はさまざまな可能性を持つ」というモデルだ。これに対し、先の広瀬の短編では「歴史はそもそも一通りの可能性しかもたない」というモデルをとることで改変が避けられる。こうした運命論にも似た広瀬の作風は、一体どこから出てきたのか、短編集の解説で筒井康隆が指摘しているとおり、気になるところではある。

 ところで広瀬が小説を発表しはじめたのは'61年、まさに『僕はビートルズ』でファブ・フォーの面々が現代からやって来た年だ。もし広瀬が彼らと出会ったら、きっとタイムトラベルについて質問攻めにするに違いない。

Togetter:「僕はビートルズ」の今後の展開を予想してみた

近藤正高
ライター。著書に『新幹線と日本の半世紀』(交通新聞社)など。一番好きなSF作家は藤子・F・不二雄。

※本記事は週刊アスキー6月7日号(5/24発売)の記事を転載したものです。

この記事をシェアしよう

週刊アスキーの最新情報を購読しよう

本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります