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【私のハマった3冊】エロスからサイエンスまで 新しい感覚器官が目覚める体験

2011年03月10日 07時00分更新

BOOK

エロティック・ジャポン
著 アニエス・ジアール
河出書房新社
3990円

生命の跳躍
著 ニック・レーン
みすず書房
3990円

ベッドルームで群論を
著 ブライアン・ヘイズ
みすず書房
3150円

 単に情報を得たいなら、ネットの画面を向けばいい。しかし、ハマるうちに別の感覚器官が開くような経験を求めるなら、情報と格闘した先達のガイドが必要だ。ここでは、知識を積み重ねるというよりも、むしろ知覚を拡張させるものを選んだ。

 まず『エロティック・ジャポン』、時代の象徴ともなったブルセラショップから、未来の主流かもしれないラブドール・デリバリーまで、フランス女性が、日本のエロスを徹底解剖する。源氏物語や梁塵秘抄をもち出して「日本人は昔から未成熟な少女が大好きでした」と断ずる。さらに、自分に自信がもてない日本の男性は「無垢で、従順で、フォーマット化された恋人を求める」と聞くと、日本人の多様性というか業の深さを肌感覚で思い知る。

 次は『生命の跳躍』、分子レベルのメカニズムから地球の歴史まで、俯瞰と深堀りを使い分け、生きる営みの本質へと迫る。ガツンときたのは遺伝的に見た“老い”。本来ならば、捕食者や感染症などで、統計的には死んでいるはずの個体への自然選択の力がおよばなくなっているのが、現代だという。つまり、老いとはヒトが死んでいるはずの年齢を超えてから働く遺伝子がもたらしている衰えだと再定義できるのだ。

 最後は『ベッドルームで群論を』。これは、「マットレスを一定の操作でひっくり返し、とりうるすべての配置を順繰りに実現する方法はあるのか?」という命題を考え抜いたもの。マットレスという身近な例から始め、クラインの四元群まで連れて行かれる、この拉致られ感は異常。歯車のギア比からはじまった話題が、いつのまにか素数とフィボナッチ数が登場し、西暦2000年問題、ついには西暦10000年問題へリレーしてゆく手際は鮮やか。

 本とは、濃縮した知見をパッケージ化したもの。エロスからサイエンスまで、深くて新しい世界に没入すべし。

Dain
古今東西のすごい本を探すブログ『わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる』の中の人。

 

※本記事は週刊アスキー824号(3/8発売)の記事を転載したものです。

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