悲鳴伝
著 西尾維新
講談社
1365円
PK
著 伊坂幸太郎
講談社
1260円
WATCHMEN ウォッチメン
著 アラン・ムーア、画 デイブ・ギボンズ
小学館集英社プロダクション
3570円
悪と戦う原色のスーツの正義のヒーロー……そんなものは、テレビでしか存在しない嘘なのだ、という哀しい真実を私たちは知っている。けれど、それでもヒーローが現実にいたら、彼らはどんな風に生き、どんな風に戦っているのだろう?
西尾維新『悲鳴伝』は中学生ヒーローを描く長篇。だが、目次の「ヒーロー誕生!」、「頼れる仲間だ!」なんてイカニモな文言を信用してはいけない。主人公の空空空(そら から くう)の性格は正義漢とはまるで正反対。人間的な共感能力を一切欠くゆえの、極めて冷静で打算的な性格からヒーローに選ばれる。彼をスカウトした秘密組織は、ヒーローが心おきなく戦えるようにその親族知人を皆殺しするし、戦う怪人は人間とまるで見分けが付かず、しかも、それが幼稚園に潜んでいて……嫌がらせのような展開が襲いくる。それでいて苦みを残した青春小説風味で幕を閉じるのだから、詐欺にでもあった気分になる。
口直しには伊坂幸太郎の短篇集『PK』を。第二篇「超人」には、まさに現代のヒーローが登場する。けれど連作短篇の形式をとる本書の肝は、カバーに描かれたドミノのように、誰かの些細な決断が、別の誰かの運命を変えていく流れにある。私たちの誰もが、誰かにとってのヒーローになれるかもしれない。そうに思わせてくれる、ユーモアと希望に満ちた一作だ。
そして何といっても“現実のヒーロー”を描いた金字塔と言えば、ヒーローたちが活躍し続けてきた、もうひとつの米国現代史を構築した、アラン・ムーア&デイブ・ギボンズ『ウォッチメン』である。ヒーローたちの活動が、違法な自警行為として禁止された冷戦下、迫る全面核戦争の危機に翻弄される彼らを通じて、正義を、そして米国史を問い直した大傑作だ。
正義のヒーローなど、現実にはいない。だが、それでも万が一実在したら? 矛盾に満ちた彼らの物語は、私たちに正義とは何かを考えるための、きっかけを与えてくれる。
前島賢
ライター。SF、ライトノベルを中心に活動。著書に『セカイ系とは何か ポスト・エヴァのオタク史』。
-
1,365円
-
1,260円
-
3,570円
※本記事は週刊アスキー6月19日号(6月5日発売)の記事を転載したものです。
週刊アスキーの最新情報を購読しよう
本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります