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ビリー・へリントンがいるだけで、その場がMADになる【中の人に聞くニコニコ超会議】

2012年04月27日 15時30分更新

 4月28、29日に開催するニコニコ動画の一大イベント“ニコニコ超会議”まであとわずかとなった。いちIT企業が幕張メッセを貸し切るという前代未聞の一大事業を成功させるために、ドワンゴの中の人も全力を尽くしている。

 1回目のあべちゃんさん、2回目の伊豫田さんと中の人に見どころを聞いてきたインタビューも今回が最終回。長年、ニコ動の主要ユーザーと顔を突き合わせて、ニコニコ大会議などのイベントをつくってきた齋藤Pに思いを語ってもらった。

ニコニコ超会議齋藤P

齋藤P
 ニコ動の“兄貴”ことビリー・へリントンの招へいやニコニコ超軽音部ブースなどを担当。2009-2010の全国ツアーより、ニコニコ大会議のプロデューサーとして、ユーザーの出演依頼や演目などを考えてきた。歌い手CDの走りとなった『ランティス組曲』や、吉幾三ブームをまとめた『IKZO CHANNEL 441.93』など、ニコ動発の音楽も手がけている。ちなみに齋藤PのPは、現在ではパパのPだそうだ。

──今回、個人的に一番気になってるのが、ビリーの来日です。熱狂的なファンも多いのに、'08年8月に長島☆自演乙☆雄一郎さんや青木真也さんとパンツレスリングで対戦して以来、約3年半以上も姿を現さなかった。

齋藤P 久々の来日でうれしいんですよ。でも以前、短い期間に3回連続で来て頂いたのはあまりよくないなと感じていたんです。なにせ、ビリーは“ニコニ国賓”ですから。品格を保っていただく意味でも、超会議のような大きな場に来ていただくほうがふさわしい。

ニコニコ超会議齋藤P

齋藤P 29日に超パーティーに降臨するほか、両日とも隊員と一緒に会場を探検する“ビリー・クルーズ”という企画を用意しました。これが隊員です。

超会議『ビリー・クルーズ』歪みねぇ隊員決定!(関連リンク)

──えっ。動画を観ると割とガチな肉体派が多いですね……。

齋藤P 僕も“だらしねえ”体の人たちが集まって“兄貴みたいになりたい!”という流れを予想していたのに、結構、“歪みねぇ”肉体の人が20人ほどそろっちゃいました。上半身裸での応募動画、かつ男だけという高いハードルで、こんなに募集が来るとは。ビリーも「日本人はシャイだから、来るかなあ」って言ってたのに。

──おおおお!!!

齋藤P 僕はニコ動のよさって、どんなにおバカな内容の動画でもみんなで楽しもうとする姿勢だと思うんです。ビリーがフィーチャーされている“レスリングシリーズ”の動画は、もともとはランキング工作やエッチな動画だと思ったらガチムチの男が出てくるという嫌がらせでスタートしていたのに、いつのまにか市民権を得てしまった。

齋藤P まとめると“ビリー・クルーズ”とは、 超会議というカオスな場所をビリーと一緒に探検して回り、 様々なブースに凸(突撃)をかけ、MAD動画の世界をそのまま地上にだいたい再現するそんな企画です。そんな超会議ジャングルに潜む様々な危険からアニキを守る勇敢な隊員をユーザーから募集しました。結局、ビリーが横に立つだけで、彼の強いパワーでリアルMADが生まれる。普通の料理にパクチーを入れただけで、全部違う料理になっちゃう、そんな感じです(笑)。

──ビリー・クルーズは付きっきりで生放送しますかね?

齋藤P 現場で楽しむことを優先したいので生放送は考えていませんが、場内にレポーターがいるそうなので、その番組に抜かれるかもしれません。でも、単純に会場にビリーが歩いているだけというのが素敵でしょ。ディズニーランドでミッキーマウスが歩いているのは普通ですが、超会議の会場にビリーがいるっていうのは、納得できるんだけど、冷静に見るとその風景がおかしいぞっていう。

齋藤P ただ、実は僕もいろいろなブースを担当しているので、2日間、ビリーに付きっきりというわけではないんです。クルーズは1日2時間だけなんですけど、それ以外は基本的にはフリーダムなので、彼が何をしでかすか……。

──自由行動があるという!

齋藤P それは当日までのお楽しみです。一応、人がたまって動けなくなるのを防ぐために、屈強なスタッフをひとり付けますけどね。ちなみに27日には、ニコニコカーで空港までお迎えに行く生放送を予定してます。

──“演奏してみた”カテゴリーを代表するニコニコ超軽音部”のブースも気になります。

齋藤P ここはなるべく音楽の素人に参加してほしいです。“演奏してみた”は、速弾きや超絶テクニック、女装など、わかりやすいものが再生数を稼ぎやすい。そうしたものが目立つのはニコ動全体も同じで、過去に開催した“ニコニコ大会議”も含めて、ランキング上位のショーケースになりがちです。

齋藤P ただ、今回は“原点回帰”がひとつのテーマということで、“演奏したけど挫折してみた”や“リハーサルしてみた”のような、完成してないものを目指したかった。ニコ動は完璧じゃなくても、そこに二次創作がつくられたり、コメントのツッコミがはいって、あらゆる方向に昇華するのが楽しさですよね。

齋藤P 特に音楽に関してはプロセスがおもしろい。ゴダール(フランスの映画監督)がある映画の中で、ローリング・ストーンズの『悪魔を憐れむ歌(Sympathy for the Devil)』のリハーサル風景をドキュメンタリーとして撮っているものがあります。リハーサルをただ撮っただけなんですが、色々な試行錯誤をグダグダしていたセッションだったのに、あるとき音楽として急に昇華する瞬間が訪れる。

──それはまさに今月2日に開催した『ニコニコ軽音部~春休みセッション特別編~』みたいな感じですね。

齋藤P 最初にユーザーだけを集めてJCBホールでライブをしたニコニコ大会議の2日目のリハも同じです。当日、アンコールの『翼をください』を生演奏でやることが決まって、その場で音づくりを決めた。出演してくださった桃井はるこさんも「プロの世界ではありえない」とすごく感動してくれたのが印象的です。

齋藤P あのときのリハーサルで音楽ができていく感じ。ギターとキーボードが「オレはここで下がるから、そっちが入ってよ」ってやり取りするような状態が、まさにニコニコのコメントの応酬に近い感覚があったんです。それを超会議でも再現したかった。

ニコニコ超会議齋藤P

齋藤P 演奏者やバンドマンを志す人は、バンド活動を通じて楽しさや嫌な思いを経験するわけです。昔は動画サイトもSNSもなかったから、バンドメンバーを募る時は練習スタジオで、個人情報丸出しの、電話番号をちぎるようなチラシを貼っていたわけです。それで会ってみたらすごく嫌なやつが来たとか、いいメンバーに会えたとか。ネットの登場で、出会いは簡単になりましたが、一緒に音を出すには、やっぱり人となりを知るとか、先輩から教わることとかが大事だったりします。

齋藤P でもそうしたセッションを重ねることで、友情を育んだり、悔しさとか社会生活を学んでいく。僕も経験がありますが、下手にバンドリーダーになって苦悩するとかね(笑)。知らない人と初対面で音を出してお見合い状態になったりとか。相手の出方によって変えるというのは恋愛にも近い。そこってすごくニコ動的にはおもしろいテーマなんです。

──すごく同感です。

齋藤P “演奏してみた”というのは“やってみた”、つまり“Try”なんです。「演奏してみたらチューニングが狂っていた」でもいいんじゃないか。僕においてニコ動の原点回帰っていうのは、普通の動画や普通の風景が、コメントのやり取りで発展していくということなんです。まず誰かに見てもらえるというのが、ニコ動が与えた大きな革命ですよね。

齋藤P 超軽音部のブースでやろうとしてることも同じで、完成した“ライブ”をやる気はないです。タイムテーブルもあって予約ができますが、通りがかりの人に入ってもらって一緒にセッションしてほしい。

──楽器をやっている人にはすごい勉強になりますよね。

齋藤P なると思います。普段観れないアングルから、「あ、こういうふうにシンセのフレーズを抜き差ししてるんだ」って鍵盤の手元も見られるので参考になる。楽器をやっている人って、楽器屋にいくと体温が2度ぐらい上がるんです(笑)。それと似た感覚というのを呼び起こしたい。乗ってきたらいつの間にか違う曲になっていたとか、そういうこともあっていいと思います。

──あとは痛Gふぇすた出張編も担当していますね。

齋藤P 以前、僕が担当しているニコニコカーで訪れたこともあって、痛車グラフィックスさんと懇意にさせていただいてます。痛車コンテンツ自体はニコ動でそう多く見かけませんが、モチーフや精神が非常にニコ動に近い。そもそも痛いぐらいに自分の愛を表現しているわけじゃないですか。海外では、“日本のアート”だと紹介されていたりします。痛車は痛Gチームとニコニコカーチームが組んで、クオリティーが高い応募の中から、さらに厳選しました。すばらしい作品が集結すると思っています。

ボカロな痛車も並ぶ!
ニコニコ超会議のボーカロイド系イベント
写真は“第5回痛Gふぇすたinお台場”の様子。中野運営長が「ボーカロイドの痛車が数多く存在する」と語るように、痛車の世界でもボカロは定番キャラだ。

齋藤P 実は車載ブースにも関わっていて、ユーザーさん中心に車載ガレージをつくる予定です。ユーザーが超会議の会場に集まってくる様『今ココなう!』でをリアルタイムに表示するとか、“酷道”(酷い道の国道)の全国マップを展示します。

齋藤P 車載は最近注目され始めましたが、コミュニティ番号が“co6”なことからわかるように、昔からあるクラスタなんです。彼らはこれで有名になりたいとか、デビューしたいとかじゃなくて、自分たちのクルマや旅への愛情を見てほしいから、ニコ動というツールを利用している。車載オフは年に2回やってるんですよ。脈々と、自分たちの変わらないペースで。そのためだけに九州から静岡に来たりとか。

──ああ、すごく“原点回帰”な感じです。

齋藤P 超会議は、そういった人たちが集まれる場所なんです。顔を合わせて「車載動画を撮るにはこういうマグネットを使ったほうがいいよー」とか、「ラジコン操作はどうやったらいい」とかお互いのノウハウを交換して高め合っていく。

──そのあたりは他のクラスタの人と同じですよね。

齋藤P 車載の人たちはニコニコ技術部や痛車などの人と近く共通するものがありますね。横のつながりも広いだんと思います。ビリーにしろ、“演奏してみた”にしろ、車載にしろ、普通の人にはおもしろさや価値がわからないかもしれません。でもそうしたカテゴリーやクラスタが生き生きとしているのがニコ動の価値で、僕はその道のお手伝いを担っているという自負があります。

齋藤P この前、ニコニコカーで東京から沖縄まで移動して、生放送をやったときにも感じましたが、実際に動画を編集したり生放送をやることによって、みんなの苦労や運営への要望がユーザーと同じ目線で考えられるようになるんです。だって普通、ビリー・クルーズに応募してくる人たちの心理状態って外からじゃわからないじゃないですか。

ニコニコ超会議齋藤P

──海外から大物アーティストが来る、みたいな?

齋藤P 超パに出演されるタレントさんはそう思うかもしれませんねw クルーズの応募を見たら、思った以上に、ビリー好きの人は純粋で、体を鍛えてくれています。「だらしねえ体だと、ビリーに失礼だろう」という。

──以前のイベントを取材して、みんな本当にビリー・ヘリントンが好きだっていうのがビンビン伝わってきて、本当に意味不明なんだけどすごくいいと感じました。

齋藤P アイドルとも違うんです。アイドルはその対象が好きなところから始まりますが、ビリーの場合は、別に最初から本人の筋肉に憧れているわけではなく、日本語に聞こえる“空耳”や、尻を叩く音をサンプリングした“ケツドラム”などに触れて、MAD動画をつくったり観たりしていくうちに、ファンになっていった。そこがおもしろい。

齋藤P ビリーはニコ動以外で、こういう形でヒーローにはならなかったと思うんです。アメリカでは元ポルノスターということで、知っている人はいるかもしれないけど、日本での扱われ方は説明がすごく難しい。本人に説明するのも大変だったし。

──そうした新しい柱が今後もニコ動に出てくるといいんですが。

齋藤P 最近だと車載や技術部に加えて、MMD(MikuMikuDance)に注目しています。MMDは、ユーザー主催のお祭りであるMMD杯の選考委員もやらせていただきましたが、ミクミクという名と違って初音ミク以外のキャラクターも大活躍しているわけです。せんとさんやほめ春香とか、少なくとも私の中ではブームになっています。

──そういうのがニコ動を通じて外部の人にも見えるようになったのは、いいことだと思います。

齋藤P 自分で飛び込んで、中心部に行かないとわからないところもありますが、外から見て、この人たちが本気ですごい技術を持っている、本気で熱く楽しんでいるのがわかってニコニコできればいいと思うんです。「俺の知らないカテゴリーだから……」と思うのではなく、「あの人たち、何かニコニコしてていいよね」という風にしたい。「オレは野球をやらないけど、高校野球ってキラキラしてていいよね」みたいな。

齋藤P 各カテゴリーの人がそう“許容の心”を持てれば、ニコ動はもっと素敵な場所になるんじゃないかと思います。僕の中ではカテゴリーの壁の撤廃が原点回帰です。ぜひ、会場に来て原点の“カオス”な楽しさに触れてみてください。

■ニコニ国賓“ビリー”が来日!
 4月27日17時半より、ニコニコ超会議に降臨する我らが兄貴ビリー・ヘリントン氏をニコニコカーで成田空港まで送ゲイするニコ生を放送。兄貴の友人“齋藤P”がビリーをお出迎えする。

ニコニ国賓ビリー兄貴をニコニコカーで送ゲイ放送(関連サイト)

■関連サイト
ニコニコ超会議サイト

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