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フィロソフィーがないと「5Gの先」は読めない?

謎の学術「プラットフォーム学」を始める京都大学、求む「世界でかませる人」

2021年03月26日 21時00分更新

日本だから生まれるものを世界標準にできるはず

── 日本の価値観を追究する一方で、世界を目指すという発言もありましたが。

 日本の特殊事情に合わせた倫理観があると思っています。

 一例を挙げると、防災応用です。私が別に手掛けている案件にスマートメーターがあります。日本は自然災害の多い国なので、日本のガスメーターは地震になると止まるようにできています。これまでは日本の特殊事情でした。

 しかし、最近ヨーロッパでも地震が増えているそうで、このメーターはヨーロッパでも売れ始めていると聞いています。ここから、日本の特殊事例を突き詰めていけば、世界の標準にもなりうるという手ごたえを得ています。

 また、日本は海に囲まれているので、海上におけるホームランドセキュリティ(国土安全保障)を考える必要があります。海上ではいま衛星通信を利用していますが、1回線利用するだけで何千万円もかかるほど高価です。地上の基地局と海上を航行する多数の船との間でメッシュ状の無線通信ネットワークを構築し、海上も全部カバーできるような仕組みを作れば、アフリカやインドなど、広い国土を持つ国においても今後役立つでしょう。

 何も「ガラパゴスがいい」と言っているわけではなく、日本から世界に発信できる考え方を突き詰めていくのが重要だと考えていますし、そういった価値観を入れずに海外のものをそのまま使うのがカッコイイという風潮はどうかと思う面もあります。日本の歴史、文化をもう一度よく見直し、我々が本当に使いたいと思う地産地消のプラットフォームを作り、そこで日本独自の基準を突き詰めていき、唯一無二の倫理観・価値観を育めば、海外でも通用するのではないかと考えています。

 実際、アニメやポケモンのように、気付けば世界を席巻している日本の価値観というものはあります。しかしそれがプラットフォーム化できていないという課題はあると思います。

海外でいっちょう、かましてやろうという人を育てたい

── プラットフォーム学で得られる成果は?

 2つの目的があります。ひとつはこの謎めいた「プラットフォーム学」という新しい学術を京都大学内外の人の対話を通じて作ってみたいという想いです。最終的にはこのプラットフォーム学の教科書を作っていきたいと考えています。

 もうひとつがこのプラットフォーム学を修めた人を育てていきたいという想いです。ここは簡単に言うと、情報科学の分野で、野球でいう大リーグに挑戦した野茂英雄さんのような人が、出てこないかなと思っています。海外に対して物怖じをせず、これくらいなら自分でもできると思うことができるような人材が出てきてほしい。

 京都大学の場合、就職に際して学生の希望を聞くと、最近は外資系の大手やベンチャーなどを選ぶ学生は多いです。しかし、日本で新しいことをする際、ベンチャーに就職する必要は必ずしもありません。例えば、日本の既存のプラットフォーム企業に入って、新しい組織を作ってくれるのでもいいと思います。いま、既存の企業は元気がない面がありますが、そういった企業の中で新たな思想を持った人たちが現れ、「海外でいっちょう、かましてやるか」と思ってくれるような状況を作りたいのです。

 そのためには、社会の底上げが必要です。私は現在のベンチャーを起業する風潮を否定しませんが、NTTやKDDIのような通信ネットワークを作るには何十年もかかるでしょう。その間に日本が衰退してしまっては困る。あくまで比率の問題で、既存の基盤をつくる企業も活性化しつつ、それが合わないという人は起業すればいいと感じています。

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