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フィロソフィーがないと「5Gの先」は読めない?

謎の学術「プラットフォーム学」を始める京都大学、求む「世界でかませる人」

2021年03月26日 21時00分更新

棋士はうどん1杯で午後ずっと考え続けられる

── GAFAに依存する世界についてどう感じていますか?

 気が付けば、世の中はGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)が中心となって自分たちのプラットフォームを築く世界となりました。しかし、これにずっと頼っていくのかという課題もあります。今後はセキュリティなどの問題もあり、情報通信系のプラットフォームは自給自足の時代、アプリケーションも地産地消の形になっていくと思います。しかし、こういった状況に対応できる人材は決して多くないという現実があるのです。

 また、彼らの持つプラットフォームにも様々な課題があります。いま進められているのは、計算機パワーを使って大規模データを処理することなのですが、そもそも「そこまで高い計算能力が必要なのか」は疑問です。例えば、人間の脳は昼にうどんを食べるだけで様々な思考ができますし、棋士は脳に負荷のかかる将棋や囲碁の対局を行います。本当に原子力発電所何個分相当もの電力が必要なのか、データ処理の方法、分散性、低消費電力化などについて考えないといけません。

 人間の神経は、すべての情報を脳に上げているわけではなく、条件反射のように途中で戻すこともある。そういう意味では、処理の分散性を考え、うまく条件反射していけば、いまほどの計算機パワーは必要ないかもしれません。これを少しカッコイイ表現にすると、エッジコンピューティングといった言葉になるのですが、私の感覚としてはプラットフォームが人間の形に近づいているだけなのです。

全部のデータを読み込んで処理すればいいわけではない

── 低負荷で考えるためにしなければならないことはなんでしょうか?

 いまの深層学習・機械学習は定番化してしまっている点も課題です。みんなが同じようなアルゴリズムを使い、本当にその中身がどのようなものかどうかはあまり検証せず、ブラックボックスのようになっています。ここには「AIの研究者でなくても使えるようになった」という光の面もありますが、学習のアルゴリズムが本当に最適化されているかどうかは分かりません。データが持つ意味を解釈すれば、学習効率が上がり、計算処理が早くできると思っています。

 そう感じたのは、私が内閣府のプロジェクトで2年ほど前に、医療データを扱う研究開発をしたことがきっかけでした。電子カルテや薬の処方箋といった情報を元に、糖尿病患者の症状を時系列化していくもので、何千人というデータを集めて、こういう症例なら、将来的にこうなるという予測をしてみました。

 ここで壁にぶち当たりました。データの意味を理解せず、IT屋さんのみが電子カルテの情報を直接読み込んで解析すると、数年後には全員が死んでしまうという謎の結果が出てしまったのです。しかし、臨床医の先生の助言を受けながら、必要なデータだけを関連性を勘案しながら読み込んで、適切な処理をすると、先生方の経験に近いきれいな結果に近づいていきます。このように、こういう場合はこのデータをAIに読み込ませる必要はないといったサジェスチョンがあれば、処理するデータ量も減らせます。

 ここから分かったのは、処理方法や分散性といったハードに関する部分は、情報系の学問の役割ですが、データの理解は情報系だけでは無理で、情報学外の現場領域の理系学術が必要になるということです。

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