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【私のハマった3冊】古川ロッパ、エノケン、高田文夫 人物からふりかえる笑芸史

2015年04月18日 09時00分更新

1025BOOK

古川ロッパ
編 河出書房新社
河出書房新社
1944円

エノケンと菊谷栄
著 山口昌男
晶文社
2484円

誰も書けなかった「笑芸論」
著 高田文夫
講談社
1350円
 

 昭和前期に活躍した喜劇俳優・古川ロッパの再評価がここへ来て高まっているのか、関連書があいついで刊行されている。山本一生による評伝『哀しすぎるぞ、ロッパ』(講談社)のほか、『苦笑風呂』ほかロッパの著作を文庫化した河出書房新社からはアンソロジー『古川ロッパ』も出た。そこに収録された食や映画に関するエッセイや台本などからは彼の多才ぶりがうかがえる。サラリーマン出身で物真似を得意としたロッパは、本書で作家の色川武大が指摘するとおり今でいえばタモリに近い。

 台本は自分で書くと言ってはばからないロッパの自信は、あふれる知性に裏づけられたものだった。これとは対照的に高い身体性をもち、軽妙な演技でロッパと人気を二分したのがエノケンこと榎本健一だ。山口昌男『エノケンと菊谷栄』は榎本とその座付作家の関係を追う。エノケン一座での劇作を通じて本格的なレビューとオペレッタの実現を目指していたという菊谷。しかしこの分野では本場である欧米で学ぶことが必要不可欠だったにもかかわらず、彼の境遇はそれを許さなかった。結局その才能を現場での過重なノルマにすり減らされたあげく、菊谷は36歳で戦死してしまう。著者はこのことを惜しんでやまない。榎本にとってもパートナーの菊谷の早世は大打撃だった。

 時代は下り、'80年代初めに頭角を現わしたビートたけしにもまた、放送作家の高田文夫というよきパートナーが存在した。『誰も書けなかった「笑芸論」』は、たけしとの交流を含め、高田が少年時代からの笑芸の思い出をつづったものだ。従来、東京の笑いの歴史というとエノケンを輩出した浅草を中心に語られがちだった。だが戦後の東京の山の手で育った高田に浅草の記憶はほとんどない。彼を笑いの世界へと誘ったのは新宿末広亭で観た落語であり、渋谷で公開収録されていた演芸番組だった。笑芸史を山の手中心にふりかえった点で本書は画期的といえる。

 

近藤正高
ライター。ウェブサイト『ケイクス』連載『タモリの地図――森田一義と歩く戦後史』が先頃完結しました。

※本記事は週刊アスキー4/28号(4月14日発売)の記事を転載したものです。

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