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【私のハマった3冊】岡崎京子が描くリアリティーのない 日常と非日常の境界としての東京

2015年05月30日 21時00分更新

1030BOOK

オカザキ・ジャーナル
著 岡崎京子
平凡社
1728円

東京を生きる
著 雨宮まみ
大和書房
1512円

潜入ルポ 東京タクシー運転手
著 矢貫隆
文春新書
864円
 

 地方創生だ地方消滅だまちづくりだと地方をどうにかするという話が花盛りだが、田舎を捨てた地方出身者には余計なことに思えて仕方がない。むしろ、いま読みたいのは東京について。

 岡崎京子が’90年代初頭に書いたエッセイを単行本化した『オカザキ・ジャーナル』。湾岸戦争が勃発し、ソ連が崩壊してもリアリティーのない日常。そんな当時の雰囲気が鮮明な文章群。なかには東京に住むことへの言及も何度かある。

「すりきれた私のトーキョー・シティー・ライフ・デイズ……」、「『TOO・MUCH』なんだけど『東京という場所』以外には住めない」

 彼女は東京生まれの東京育ちだが、マンガの中では客観的に東京を描いてきた。東京タワー、そして必ず深夜のタクシーで東京を走る場面も描かれる。彼女が描いてきたのは、リアリティーのない日常と非日常の境界としての東京だろう。

 雨宮まみの『東京を生きる』は、岡崎京子の東京語りの後を継ぐものとして読むことができる。福岡出身の彼女の目に映る東京。やはり東京タワーと夜のタクシーから見た東京についての記述が印象的だ。

「特に雨の日の、夜のタクシーが好きだ」、「この景色を何時間でもお金で買えたらと思う」

 雨宮はこう語る。「いちばん欲しいものが、はっきり言えない」。だから自分はつまらないと。これすらも東京の描写に読める。何でもあるけど、欲しいものだけない街、東京。

 最後は東京をリアルに受け止めざるを得ない職業についての本。『潜入ルポ 東京タクシー運転手』。東京のタクシーの運転手って、どういう仕事なのか? 広大な東京でタクシーに乗るには、難解で合格率も低い“地理テスト”に合格しなくてはならないらしい。それでも、国会議事堂すらわからない運転手がいるというから不思議な世界。

 

速水健朗
フリー編集者・ライター。近著に『1995年』(ちくま新書)、『フード左翼とフード右翼』(朝日新書)。

※本記事は週刊アスキー6/9号(5月26日発売)の記事を転載したものです。

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